ボクの言うことを理解出来ない奴はみんな馬鹿だ。と、時々思うことはあるけど、それを言葉にして彼に言った覚えはなかった。
いや、言ったところで何が変わる。何の変化も訪れず、時間が経過し、忘れ去られていくはずだった。
そこで彼ははたと忘れていたことを思い出した。冒頭のことではない。彼の性質を思い出したからだ。

本物の馬鹿であることを。

「なぁ、俺はもっと頭が良くなれたら周の言ってることをもっと分かると思って………なんと!今回の小テストは赤点回避しました!」
「ボクに関係ない話だから話しかけないで」
「これも周のおかげだ!ありがとな」
「はぁ…………」

話が噛み合わないのはいつものことだった。
廣瀬の話を耳に通り抜ける周の頭の中は早く家に帰ることしか考えていなかった。周は廣瀬が嫌いだ。性格も顔も全部嫌いだ。だから、わざとあからさまな態度で廣瀬に接した。しかし、嫌われるところがだんだん距離を詰めてきてるような気がしてきてならない。こいつはドMなんだろうか。そう思って、次はもう何も言わず、極力反応を示さないことにした。だが、相変わらず廣瀬は底抜けの明るさで接してくる。
周は初めて廣瀬のことを別次元の何かと思い始めて数日。
廣瀬は廣瀬だった。
最近、絡んでこないと思ってよっしゃ!と思っていたら、周の言葉を理解したいため、勉強していたらしい。彼のやることは本当に理解出来ない。

「さぁ、周どんどん話していいぞ!今の俺ならなんでも出来そうな気がする!」
「…………………」
「無視すんなって〜。俺が周より点を取ったからって拗ねるなよ〜」

何故、周の点数を知ってることに周は何も言わなかった。いつもの廣瀬の思い込みだ。廣瀬は一般人より少しってかとてつもなく思い込みがすごい。激しいではなくすごい。ポジティブ妄想。
しかし、廣瀬の言葉に無視できなかった周はつい反応してしまう。

「アンタ、馬鹿?」
「うっ、馬鹿って言うのが馬鹿なんだぞ!」
「ボクは今回だけではなく、いつも赤点ギリギリ回避してるし。少なくともアンタよりは上だと思うけど」
「ろくに学校に来ない癖に赤点にならないなんて…裏で頑張ってるんじゃないか?」*
「は、」

浅く笑う。

「何もしていないよ」
「嘘だろ!俺は一生懸命勉強したんだぞ!」
「……………ああ、しつこいな。褒め言葉が欲しいなら別の奴に褒めてもらえば」
「え?どうして?」
「どうしてって…アンタはボクにどうして欲しいの。さっさとしてよ…」

しつこくつきまとう廣瀬に周は今すぐにでも突き放したかった。
ボクは気味悪い人間だと知ってるし。クラスの視線が気持ち悪かった。廣瀬はそんなことを知らずにボクと一緒にいる。好奇心の目。嘲笑のような目。とにかく視線が気持ち悪かった。早くほっといて欲しい気持ちだった。

「だって、周と話したくてここにいるんだ」

廣瀬の無自覚で間抜けな顔が実にとても腹立たしかった。ボクは人の求めるような言葉を口にできないし。むしろ、しない。周りが離れるのも慣れていた。だから、別に嫌われようが構わないのに、廣瀬だけは…いや、あの女もいた。最近、変な奴が増えているみたいだね。
周は心底から思った。

「馬鹿じゃないの」

∴思考のブーメラン