小指に絡む糸が見えた。
掴もうとすれば、それはすり抜けてしまう。
長く続く糸の先を辿ろうと思えば出来るが、どうにも糸が邪魔で動きにくい。
だから、天才である大日は良いことを思いついた。鋏で切ればいいのだ。
さっそく手で鋏の形を作り、チョキンと小指に絡む糸を切った。

その糸から解放された大日は欠伸をしながら、愛しい愛しい自分の化身の元に行った。
別にオレ様が寂しいからではない。むしろ、不動を寂しがってあげたら良くないからな。

「オレ様のこと恋しかったか?」
「はぁ……」

いつものやりとりだ。
いつもなら終わる会話なのだが、大日は不動に近づいた。
不動は怪訝そうな顔で何だ?と聞くと、大日はにやりと効果音が出るくらいに微笑んだ。
よく見ると、不動の手にも糸がついてるではないか。不動の指に結ばれた、長く長く続く糸の先はやはり見えなかった。
大日はそれ、見えるのかと聞くと、
不動は何が見えるんだよ。なんかついてんのか?と自分の体を注意深く見た。

どうやら、「それ」を見えるのは大日だけであった。

ふんふーんと鼻歌しながら、不動の小指についた糸を大日は先程と同じように鋏の形をした手でチョキン、と切った。不動は大日の意味不明な行動に驚かされるのはいつものことだが、何故か今の大日はちょっと雰囲気が違うと感じた。

見た目はご機嫌のように見えるが、圧を感じるのだ。
まるでそれは、自分達の不可侵領域を侵されて気に食わないような。

きゃあきゃあ騒がれるよりマシかと黙ってされるがままにしてると、大日は袖から何やらを取り出して「手首出せ」と不動に命令した。
不動は変に逆らうよりも従った方が楽だと考え、「ん」と手首を出した。
大日はウキウキと不動の手首に何かを結ぶような仕草をしながら、「はい、これで終わり!」とギュッと手を握られた。不動は一体何を細工されたんだよ…と手首を見ると、何も施されていなかった。ふざけているのか。

「何をしたかったんだ…」
「ふふーん。じゃ、オレ様は忙しい身でな、また会おう!」

大日はご機嫌な様子で、何処かに飛び出していった。さっきよりも機嫌が良くなったことは確かなようだ。
不動は一体何なんだ…と呟きながら、大日に何やら施された、何もない手首を見ると少し息を吐き出した。



「…オレ達は切っても切れない仲だろ」








▼運命なんて信じないぞ。オレ様が決めるからな!の大日とよく分からないけど、なんとなく察する不動