怖いものがある。
ベッドに入って一時間程経過した頃、ゴロゴロと地鳴りとともに聞こえてきた音。わたしはすぐに身体を縮こませた。布団を頭から被り、目を閉じる。何でよりによって彼が防衛任務でいない時に雷なんて。
虫とかホラーとかそういうものは怖くない。雷だって日中にゴロゴロいってるのは全然気にならないのだ。けれど、夜は怖い。何故と言われても説明できない。どうしても夜になったら怖く感じるのだ。
響く音は少しずつ大きくなる。稲光こそシャットアウトできるものの、この地の底から響く音は耳を塞いだって聞こえてしまう。
低音に紛れてサァァと聞こえてきたのは雨の音だ。あぁ、彼は何時まで防衛任務だっただろうか。トリオン体だから濡れても平気なのだろうけれど、雷雨のなかの任務は平時よりも多少大変なのではないかと思った。
雷の音は一ヶ所ではなく、あちこちから聞こえる。まだまだ鳴り止む気がしない。このまま夜が明けてしまうのではないかとさえ、思ってしまう。
カチャリと鍵が回る音が微かに聞こえた。まさかと思い、布団から顔を出して確認しようとした。けれど深くかぶっていたせいでなかなか出口が見つけられない。そうしているうちに足音が近付いてきて、バサリと布団を剥がされた。
「どんだけ潜ってんだよ」
ここに戻るまでトリオン体だったのだろうか。未だサァサァと降る雨に打たれたような様子がないことが、薄ぼんやりとした暗闇の中でもなんとなく分かった。
「おつかれ…」
「おう。つーか、寄れ。俺ももう寝る」
諏訪にスペースを明け渡すと、彼はすぐにわたしの隣に寝転んだ。布団を彼にもかけながら、わたしはこっそり安堵のため息を吐いた。あぁ、良かった。これでわたしは一人ではない。そう思っていると、隣で諏訪が低く笑った。
「なに」
「いや、相変わらず雷ダメなんだな、お前」
付き合いの長い彼はわたしの怖いものを知っている。初めてそれを知った彼は、似合わないと爆笑していた。似合わなかろうが、怖いものは怖いのだ。
「うるさい」
「あー?人がお前の為を思って早く帰ってきてやったのに、んな言いぐさはねぇだろ」
わたしは思わず諏訪を見上げて瞬きをした。
「…そうなの?」
「ウチの戦闘好きの十代共に感謝しろよ。暇で暇で仕方ねぇらしいから、後任せてきたんだ」
まさかわたしの為に早く帰ってきてくれたなんて、思ってもみなかったから驚いた。戦闘好きの十代というと、米屋君達だろうか。わたしは成人するまでボーダーにいたから、彼らのことはよく知っている。今度機会があったら、何かお礼ができたらいいなと思った。
「おら、さっさと寝ろ。雷なんかトリオン兵に比べたら何ともねーだろうが」
ごもっともだが、撃退できるぶんトリオン兵の方がわたしにとってはましである。けれど、諏訪がこうして居てくれるなら、音が鳴ろうが稲光がカーテンから漏れようが怖くない。さっきまでの恐怖が嘘のようになるから、不思議だ。
「ありがとう、諏訪」
「へいへい」
わたしよりもずっと大きな手が、背中に回った。抱き寄せられて、目を閉じる。雷の轟音が届いても、もう大丈夫だ。きっとわたしはすぐに眠りにつける。
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