古い記憶が、時々夢として現れることがある。

はっと目を開けたら、見慣れた天井が見えた。どくどくと心臓が早鐘を打っていて、全身が汗ばんでいる。とても身体が熱かった。
ぐぅとひとついびきが隣の布団から聞こえてきて、そちらを見ると、銀髪の頭がもそもそと動いた。それを見て、わたしはようやく自分の鼓動が落ち着いていくのを感じた。

攘夷志士として、自分が戦っている夢だった。かつての己の姿。ほんの少し剣の腕が立つくらいで、世の流れに抗えるつもりでいた愚かな自分の姿だ。血生臭い戦場で次々に倒れていく仲間を見て、刀を握る手も足もいつも震えていた。恐れをなしたわたしは最終的に逃げ出した。消したくても消せない、この先ずっとわたしの心の中にある記憶だ。
夢の中のわたしは、天人に銃で撃たれていた。撃たれたのは右肩だった。逃げ回るのだけは上手かったわたしは、実際に撃たれたことはなかった。身体を起こして右肩に手をやる。痛みなんてないはずなのに、わたしは肩をさすっていた。

「…どした」

声が聞こえて、驚いた。そちらを向くと、眠たそうに欠伸を噛み殺す銀さんと目が合った。

「…何でもないです。起こしてごめんなさい」
「いや、まぁ、…いーけどよ」

ふわ、と彼がまた欠伸をするのを見て、申し訳なくなる。いったい今は何時だろうか。まだまだ暗いから、寝始めてからそう経っていないのかもしれない。

「…おやすみなさい」

彼が気にするといけないから、わたしは布団に身体を戻した。今日は珍しく朝から仕事に出ていたから、彼は疲れているはずだ。早く眠ってもらうために、わたしも目を閉じて眠ることにした。もう過去の記憶を呼び起こすことがないようにと、願いながら。

「…こっちくる?」

ぽつりと落とされた声に誘われて、そちらを振り向けば、銀さんが肩肘をついてわたしを見ていた。目が合ってどきりと心臓が動いたけれど、わたしは首を横に振った。怖い夢を見て、相手を起こして、寝かし付けてもらうなんて、いい歳をして恥ずかしすぎると思ったからだ。

「え、なに。銀さんのことが嫌なんですか、このやろー」

抗議の声は先程までと違って幾分か覚醒していた。嫌いではないです、大丈夫なだけです、の意を込めてわたしはもう一度首を振って布団に潜り込んだ。すると、もそもそと背後で動く音がした。かと思えば、次の瞬間自分よりもはるかに温かく大きな身体に包まれた。

「え、あの、え、なに…」

お腹に腕が回ってきてようやく、彼がこちらの布団に移ってきたことに気がついた。神楽ちゃんもいるからね、と別々にしている布団の境界を越えてきたらしい。

「あの、ちょっと…」
「うっせー。動くな。おとなしくしてろ」

驚いて思わず身じろぎするわたしを制するように、銀さんが言う。しっかりと拘束されて、わたしは大人しくならざるをえなかった。夢の中で撃たれた肩に、彼の顎が乗る。全身から体温が移ってくるのを感じた。先程目覚めた時に感じたような嫌な身体の暑さではなく、じんわりと染みてくるような、優しい温度だ。

「目ぇ瞑ってさっさと寝ろ」

お腹に回った手にとんとんと、あやすように叩かれて、わたしは観念して目を閉じた。瞼の裏には、白き夜叉の姿が目に浮かぶ。攘夷戦争時代に、怖いなら逃げろと背を押してくれたのはこの人だった。あの時に救われ、今もこうしてわたしは救われている。

「…おやすみなさい」
「ん」

血生臭い戦争の記憶は、忘れることなかれと度々わたしを締め付けるけれど、この人がいてくれるならわたしは今を見失わずに歩いていけるのだ。


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