プリズム乗せた観覧車
思い返してみればわたしは、彼がわたしの手を引くのを振りほどけたことなんて一度もなかった。小さい頃からそうだ。手を引かれればどこにだってついていった。そうやってこの船にだって乗った。ローが部屋の鍵を閉めて、わたしは手を引かれるがまま、彼のベッドに座らされた。ローはそのまま隣に座った。手は離された。
そこから沈黙。帰ろうとしたわたしを引き止めたのはローなのに、黙するのはいったい何故か。並んで座っているから表情も窺えない。わたしから何か言うべきなのだろうか。
「…船は」
「…え?あ、はい」
「船はどうだ」
どう口火を切ろうか思案していたから、返事がいささか間の抜けたものになる。唐突に船はどうだ。ほんの少しの間考える。わたしにとってこの船はどうなのだろうか。
「自由にやりたいことさせてもらってるし、皆も優しいし、わたし海好きだし。過ごしやすい、かな」
嘘はひとつもない。海賊故に危険が付きまとうのは当然のことだけれど、ここで過ごす時間がとても温かいものであることは確かだ。
「そうか…」
ローはひとつ吐き出すようにそう言った。それを聞いて、わたしはあぁと理解した。ずっと気にしていたのだ。わたしがこの船に乗ったことを後悔しているんじゃないかと。馬鹿な人だ。もう少し自惚れてくれたっていいのに。
「…ローはどうしてわたしを連れてきてくれたの」
この船に乗って以来、ずっと聞きたくて聞けなかったことをわたしは口にした。今なら聞ける気がしたからだ。それでも気恥ずかしくて、首に掛けたままにしていたタオルで、今更ながらわざとらしく髪を拭く。顔なんて見せられないし、ローの顔も見られない。
ローはしばらく何も言わなかった。流れる沈黙。船は現在潜水している為に、波の音も風の音も何も聞こえない。ひたすら静かなこの空気が居たたまれずに、わたしはタオルを小さく握った。
「離れたくないと思ったからだ」
やっぱりいいよ、何でもない。とわたしが言おうとしたまさにその時、ローはゆっくりとそう言った。思わず彼の方を向けば、ローもまたわたしを見ていた。
「どうして…?」
自惚れるにはまだ足りない。彼には自惚れてくれてもいいのにと思ったくせに、自分勝手なわたしは次の言葉を望んでしまった。
「大切だからだ」
船が徐々に浮上していく。丸窓から月明かりがゆらゆらと射し込んで、わたしたちを照らした。
「…昔からずっとな」
タオル越しにわたしの頭に優しく手を置いて、ローは微かに笑った。胸が苦しくなって、あっという間に視界が滲んだ。この人にここまで言わせてしまったのならもう、自惚れてしまうしかない。昔からずっとなんて、そんなの。
「わたしだってそうだよ…」
手を引いて、どこまでだって連れて行って欲しい。
わたしの言葉に、ローはそんなこと知ってるとまた笑った。目と目が合う。肩にそっと手が置かれ、わたしはゆっくり瞳を閉じた。