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やって来て一週間も経っていない為、どこへ向かうにも時間がかかる。ましてやこの革命軍総本山は、ありふれた建物ではないから余計に。方向感覚は悪い方ではないはずだが、慣れないと自室に戻るのにも苦労しそうだ。
ここを曲がってここを曲がってと、頭の中に刻んでいるときに、自分と違う足音が聞こえて立ち止まる。角の先に誰かがいる。ピリッと空気が震えて、わたしは反射的にヒップホルスターに手をやった。愛銃に指が触れたところで、我にかえる。ここに敵がいるはずはないのに、いったい何を。
立ち止まったわたしとは逆に、一定の速度で角を曲がってきた相手は、わたしを見て「あ、」と声を漏らす。
「どう?慣れた?」
ごく自然に足を止め、声をかけてきたこの男をわたしは知っている。
「まだあまり」
「ふーん、そっか」
革命軍のNo.2。つい先日初めて顔を合わせた。先程の空気の震えはもう感じないけれど、この相手はなんだかスキがないと思った。今すぐに撃ったって殺れない気がする。撃たないが。
「元軍人、だったよね」
「はい。……それが何か?」
問い返したのは、彼の言葉にほんの少しの挑発を感じ取ったからだ。まともに会話をするのは初めてだが、それでも問い返さずにはいられなかった。
「いや、別に」
「そうですか」
「うん」
彼はゆったりと笑って頷き、とんと壁に身体をあずけた。そこでわたしは気がついた。彼が本当にわたしに問いたいことは、どうやらここからのようだ。焦りか緊張か、自分でもよくわからないけれど、なんだかとても喉が渇く。
「何で革命軍に入った?」
腕を組んで壁にもたれる彼から、威圧は感じられなかった。けれど瞳は真剣で、見定めるようにこちらを見下ろしている。今気づいたが、彼は背が高い。
「恩義を感じているからです」
わたしは素直に答えた。
「恩義」
彼はわたしの言葉をそのまま繰り返して、ひとつ頷いた。
「恩義はあるけど、忠義はない」
そして断定的に言った。口元は緩やかだが、目は全く笑っていない。背筋がひんやりとしたのは、いつぶりだろうか。咄嗟に頭を回してみても、否定の言葉は浮かばなかった。それは即ち肯定の証だ。
「ここに来てまだ日が浅いので、確かに忠義は薄いでしょう」
彼がいったい何を見定めようとしているのか、それがわかった。彼はわたしが何か企んでいるのではないかと、勘繰っているのだ。わかったところで別に悲しくもないし、煩わしくもない。なぜならわたしは、疑われて当然の行動をとって、革命軍にいるから。
「素直だね」
「嘘を言っても仕方ありませんので」
「君が危害を加えるんじゃないかって、心配してる奴も中にはいるんだ」
特にあの任務に参加した奴らはね。腕組みをといて、彼は大袈裟に肩をすくめてみせた。その動きが妙に芝居じみて見えて、気づいたらわたしは口にしていた。
「貴方もそうなのでは?」
無礼を承知で、睨むように彼を見詰める。彼がわたしを見定めたいように、わたしも彼を見定めておきたかった。
「おれ?おれは心配してないよ。君じゃあおれを殺せないし」
わたしのホルスターに視線を落とし、彼は白々しく笑った。年頃の男女が通路で立ち止まって会話するには随分と物騒な内容だと思った。わざわざ言われるまでもなく、殺せるとは思っていないし、他の人員に危害を加えようとも思っていない。
「あ、そうだ。君さ、何が得意?」
「得意?」
思い付いたように言う彼の言葉の意図が分からず、聞き返す。もともと、自分は会話が得意な方ではないが、この男とのキャッチボールはなんだかすごく難しい。
「そう。君をどういう風に任務で使うか、参考に」
あぁ、と合点がいった。今までやってきたことが活かせるならば、願ってもない。わたしの得意なことは、軍人になる前からこれしかないから。
「撃ち抜くことが得意です」
背負っていたライフルを正面に持ってきて、彼へと掲げた。"何"を撃ち抜くかはわざわざ説明しなくてもいいはずだ。ここだって軍とそう変わらない。血と屍を見ながら進んでいく場所だと思っている。
「よし、じゃあ、そんな感じで動いてもらおう」
言いながら彼は歩き出した。角を曲がって、足音が聞こえなくなるまで、わたしは背を向けることができなかった。負けてしまったようだから、怖い人だとは思いたくはない。苦手な人だと思うことに決めた。
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