-襲撃・撃退・聴取-2



飛び出してきたのは少女だった。
年は杏架より二つ三つ上だろう。
橙の髪が被り物からのぞき、濃い赤紫色の瞳は先程の驚きから微かに潤んでいた。

「不知火凪沙(しらぬい なぎさ)・・・というのか?」

「いエース、私の名前凪沙ーお兄さん私を解放してー怖いよー、睨まないでー」

「・・・睨んだ覚えはないが」

おかしな口調でふにゃふにゃと許しを請い騒ぐ凪沙に、紅苑は内心で溜め息を吐く。

「じゃあ何故こちらを狙った?答えによっては解放してやる」

「あぅ・・・我が愛用のボウガンちゃんは悪くないです・・・私の手も悪くないです・・・」

苦しい言い訳を聞きながら凪沙の武器を見る。
それは腕に装着するタイプのボウガンで、スイッチと連動して矢が飛び出すタイプのもの。
しかも見る限り手入れもしっかり行き届いている。

「ではお前は何も悪くなく、そのボウガンにも罪はなく、手が滑りましたと同等の事故で俺達を怪我をさせかけたと、そう言いたいのか?」

「うわん!お兄さんなら絶対怪我しないし!
酷いよ!酷いよ〜!」

「矢?」

喚く凪沙の横で事態を呑み込めていない杏架が首を傾げる。
そして紅苑が溜め息を吐き出しつつ説明。

「こいつがその右腕に装着しているボウガンで俺達に向かって矢を放ってきたんだ」
「お兄さんそれ掴んだけどね!?人間ができる技じゃないから!有り得ないから!お兄さん何者なの!宇宙人!?」
「れっきとした人間だ」
「えぇー!紅苑さん矢を掴んだの?!早くなかった?痛くなかった?」
「別になんともない」
「すごーい!・・・それで何で矢が飛んできたの?」
「それはこいつが・・・」

「人違いなんだぁー!お兄さん達を狙ったんじゃないんだよぅー!」

やっと杏架が事の顛末を知ると凪沙はわんわんと泣き出した。
多分嘘泣きではあるが言っていることは真実なんだろう。
言わなくてもアレだが物凄く傍迷惑だ。


「・・・とりあえずどこかで詳しい話を聞いた方が良さそうだな」
「ふえーん!おにーっ!」


「・・・大丈夫凪沙さん?」

力なく紅苑の連行についていく凪沙を案じる言葉を杏架はポツリと呟いた。




「つまりこういう事か。
凪沙はある人間を待ち構えてあそこに陣取っており、たまたまそこを通りかかった俺達とそいつを間違えた・・・と」

「うん・・・!その通り・・・ん〜!幸せ〜」

町の喫茶店の一角。
お洒落な四人掛けのテーブルで、凪沙は事情を説明しながら紅苑の向かいの席でケーキにがっついていた。

なぜこうなったかというと、町に着いたまではいいが、普通なら有り得ない矢の投げ返しをやってのけた、得体の知れないお兄さん(紅苑)からの重圧(本人無自覚)に凪沙は喋る気力を無くしていた。
どうしたものかと悩んだところで、お馴染みのように杏架の可愛い腹の虫が空腹を訴えてきたので、どこかで何か食べながら話を聞こうという流れになり、今に至る。
ちなみに杏架も紅苑の隣で現在デザートのプリンをパクパクと食べているし、聴取をしてる紅苑自身も軽食にとサンドイッチを口に運んでいる。


「あ〜美味しい〜な〜ふふふ〜。このお店、意外な穴場だったなぁ・・・今度からちょくちょく通おっかな〜♪」

「・・・話を戻したいんだがいいか?」

「あぁはいはい!おけおけ!矢を射っちゃったのは本当にごめんなさいね。
本当は煩いアイツに一発食らわせたかったんだけどしくじっちゃった!」

「一発でもそのボウガンなら大怪我になるぞ?
下手したら・・・」

「あぁ大丈夫だよ!狙ってる奴は一発程度で死にゃしないから☆」

「・・・察するにアイツとやらとお前は顔見知りなんだな」

「不本意ながらね〜・・・こっちは願い下げなんだけど・・・腐れ縁?みたいな?」


「・・・ふぅ!ごちそうさまでした!」

説明に一区切りついた頃杏架が料理を食べ終わる。
すると凪沙が、今度は机から身を乗り出して杏架に顔を近づけ始めた。
しかも爛々と目を輝かせながら。

「ねぇねぇ?あなた・・・名前何て言うの?」

「わたし?杏架だけど・・・?」

「ふーん、ねぇあなたのことを『杏架』って呼んでいい?」

「は?」「へ?」

凪沙の急な切り出しに、隣で見守っていた紅苑も間抜けな声をあげた。

何て言うか・・・凪沙は切り替わりが早いようだ。
しかし杏架も負けていないらしく、一瞬驚いた顔をしたものの。

「あ、うん!いいよ」

と二言で返事をした。


「いいねいいね!ノリが良いのは大好きだよ!じゃあよろしくね!杏架!
というわけで!杏架&お兄さん!」

「なぁに?」
「俺も?」

首を傾げる杏架、ぽかんとする紅苑。
各々の反応を気にもせず凪沙は言い放った。


「私の“ムカつくアイツ襲撃作戦”に協力してよ」




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