“司る者”の消えた日



世界は幾つにも分かれていて、全ては繋がり、離れながらもそれぞれの時間を紡いでいる。

ある世界は神が住まう天に程近いところに実った。
そこに神は生き物を生み出し、地上に住まわせ営みを持たせた。

ある時、天空神は生き物が発達していく中で生き物達が世界の枠からはみ出さないよう管理することを提案した。
というのも、その世界と似て天の近くにある別の世界では神の手が行き届かず、そこに生きる者達の中に生まれた世界から外れる者が表れるようになったからだ。
彼等は他の世界に害を及ぼし、今では天界の者がはみ出すものを減らすために介入するほどである。

このような事がないよう、あらかじめ世界の生き物を抑制しようという考えに、他の神々も同意した。
そして天空神は死の世に住む冥界神と共に管理するための“機能”を産み出すことにした。

まず冥界神は“力”を司る者を作った。
それは生き物が体を動かすところから始まり、世界を揺るがすまでに至る物理的な源。
これを受けて天空神は“知恵”を司る者を作った。
持ち得る“力”を如何に操るか、そして実行するまでに必要の是非を思考する事を強要させる為に。

次に冥界神は“呪い(まじない)”を司る者を作った。
それは生き物の生命力から、世界に満ちる事象に関与し左右するための源。
これを受けて天空神は“愛”を司る者を作った。
行使する“呪い”は何のために奮われるのか、及ぼした影響がどのようなものかを常に意識させて枷を外さない為に。

作られた司る者達は核からやがて意思を持ち、個となった。
神々はそんな彼等に体を与えた。
これから栄える生き物達の元となる姿を。
後に神はその姿の生き物を“人間”と名付けた。

司る者達が生き物を管理する流れが上手く回り出すと、次に天空神は感情を授ける者達を作った。
これにより理をはみ出さないために必要な抑制の枷が出来上がり、管理する者達にも余裕が生まれた。

“力”は“愛”に触れて“、“呪い”は“知恵”を得て、より一層司るものを強くしていった。


そうして日々が巡る中、ある悪戯好きな神がひとつの“悪戯”を思い付いた。
神は“悪戯”を実行するために“呪い”を司る者に細工をした。

すると、“呪い”は暴走して抑制するためにいた“愛”をその手で消した。
“愛”が失われると、温かい施しを受けていた“力”が支えを無くして壊れた。
そうして四人で流れていたはずのバランスは意図も容易く崩壊し、細工をした神はどこかつまらなさそうに全てをそのままにして場を去った。

ただ一人、影響を受けなかった“知恵”は自身が司るものを尽くして壊れた二人を何とか止めることに成功した。
しかし狂った巡りを直すまでには至らず、悩んだ末に“知恵”は一つの決断を下した。
その為に“知恵”は産みの親たる天空神に事の顛末を告げ、ある仕掛けを作り“力”と“呪い”と共に“愛”のようにゼロへ還った。

全てを知った天空神は悪戯好きの神を罰として幽閉することにした。
その事を不服だと腹を立てた悪戯好きな神は、幽閉される前に地上へ降りた。
そして、地上の“人間”にある噂をばらまいた。


「天の神が作った四つの力の源が地上に落ちた。
全てを手にした者は世界の王になれるだろう」



悪戯好きな神は幽閉された。
授ける者達がなんとか理を外れない枷を維持するが、抑制のなくなった四つの源は地上に生きる者達へ際限なく宿ることとなってしまった。


ただ、とある仕掛けが動き出していることは天空神以外、誰も知らない。







時がただ過ぎていく。

かつて四人の司る者が居たその場所は、今は風しか訪れない。




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