僕の選択




「ねぇアロ」
「うん?」

市の高台に作られた質素な柵を掴み座り込んだまま、ラノスは隣に立つアロを見上げた。

「例えばの話なんですけど聞いてくれますか?」
「お説教じゃなきゃ付き合う」
「……僕がもし、“男”を選んだら、アロは僕の友達でいてくれますか?」
「……ああ、モチロン」
「じゃあ……僕がもし、“女”を選んだら……アロは友達でいてくれますか?」
「……はぁ?お前バカか?」
「え?」
「お前はバ・カ・かって言ってんだよ優等生」

コツンと握り拳が頭を叩く。
叩かれた頭をおさえてポカンと見上げる様子を見て、アロは呆れた顔で口を開いた。

「“男”を選んだら友達で“女”を選んだら友達じゃない?んなことあっかよ。
ラノスお前本当はバカなんじゃねぇ?」
「え……あ、だって、」

「“男”でも“女”でも、ラノスと俺は友達だろ」


もう一度、今度は掌が頭をポンと叩く。
まるで手のかかる子供に言い聞かせるようなハッキリとした口調で続ける。

「だって、例えラノスがこのままでも、“男”でも“女”でも。それがラノスであることに代わりはない、当たり前のことだろ?」
「でも……」
「ラノスさぁ……ごちゃごちゃ考えすぎ!
そりゃお前はいいとこ育ちで教養があって、ついでに礼儀作法は完璧マスターないい子だが……だからってお前……“異性”って関係を意識しすぎなんじゃねぇ?」
「あ……」

無意識に柵を掴む力が強くなる。

―男児は女性の前では紳士であれ―
―女児は男性の前では淑女であれ―

父の教え、母の教え。
男には男のマナーがあって、女には女のマナーがあって。
男性ならば品格を、女性ならば慎ましさを。
一から十まで、端から教えられた。

でも―――

真ん中に挟まれた僕は―――?


分からないから、男の前では淑女で、女の前では紳士で。
真ん中の対応をした。真ん中でいた。

僕は均衡のとれた天秤であった。
だからどちらにも深入りはできるし、しないこともできた。

けれど、それがどちらかに傾いた時。

選ばなかった方との距離感は寄るの?離れるの?
どのくらいなの?

知らないよ。だっていつも僕は“真ん中”であったから。

なのに、


「男と女が友達でいちゃいけねぇなんて決まり、あるわけないじゃん
しつこく言うぞ?“男”でも“女”でもラノスはラノス!んでもってラノスと俺は前っから友達だろ。だったら性別がどうなったとこで関係が変わるなんてないに決まってらぁ」
「変わら……ない、……距離も?」
「だってもしラノスが“女”になったとして、俺がお前を避けると思うか?んん?」
「……ないでしょうね」
「百点をやろう優等生」

イヒヒと笑って満足そうにラノスの頭を何度も叩く。

「ねぇアロ、貴方はどうして今の性別を選んだんですか?」
「はぁ?そんなの覚えてねぇよ。なんとなくだろ、なんとなく」
「なんとなくで選んじゃっていいもの何ですか?」
「なんとなくでもなんでも、俺が選んだんだから別にいいだろ。それに覚えてないなら後悔のしようもないし、てか後悔する気もねぇし」
「じゃあアロは自分の選択に悔いはなかったんですね」
「……そう言われるとどっかしら怪しいところがある気がしなくもない」

「そうですか」と呟いてラノスは柵の向こうの景色を見た。


僕はどちらであるか。
家の人に流されるまま育ったから僕は選ばなかった?

ああ、違う……。
僕は怖かったんだ。

“男”を選ぶことで、母と姉を悲しませるのが。
“女”を選ぶことで、父の期待を裏切るのが。

無意識に僕は逃げていたんだ。ずっとずっと。



まだ見馴れない始めて訪れた町の風景。
最初はただ巻き込まれただけで、愚痴を溢したこともあった。

でも立ち止まっていたはずの自分の姿にこうして今、向き合っている自分が生まれ故郷を離れた場所にいる。

きっとあのままだったら見ることのなかった自分の弱さ。
怖いけど。それでも今の自分ならきっと、自分がありたい自分を選び出せる気がする。


「というかそもそも、性別って生まれてすぐなんとな〜く決まるものだろ。深い理由なんて・・・あるのか?あったりして?いやでもう〜ん……」
「アロ」
「ぉ、うん?」

「ありがとうございます。なんとなく、分かりました」

「……今更だけど“なんとなく”って説得力ないな」
「そうですね。……でも」


今の自分の気持ちを形容するのに、なんとなくがピッタリと当てはまる気がした。

まだ確固としてない、未熟な決意。
なんとなく、だけど僕は僕の選択を。


僕がなりたい僕の選択をするんだ。




- 54 -

  | 


戻る

小説トップへ戻る



メインに戻る


サイトトップへ戻る



ALICE+