
「ボクはお前が嫌いだ」
いきなり投げつけられた台詞に、きょとんと目を瞬かせる。
いかにも怒ってますよと言いたげな睨み顔を、こちらに向けられる覚えは、残念ながらなかった。
「何だ急に?」
「ボクはお前が嫌いだと言ったんだ」
「……はぁ」
たまにコイツの言動理由が分からない。代表としては「男だ!」発言だが、アレはアレで最近、許容範囲に入れられるようになった。
しかし開口一番に「嫌いだ」などと言われるのは本当に理解不能だ。俺何かしたっけ?
「……ボクはお前が嫌いだ」
「そーかい。別になんと言おうとお前の勝手だからいいけど……本人の前で言うな、地味に心が痛い」
「お前が嫌いだ!!」
「狙ってんのか!?お前は俺の心に傷をつけることを狙って言ってんのか!?」
「……だから、そんなカシに頼るボクが嫌いだ」
ぐす、鼻をすする音がして、見ればそいつは今にも泣き出しそうな赤い顔をしていた。
あぁ、もう。本当に意味不明だ。何でこうなる。
「……なに泣いてるんだよ」
「泣いてない」
「の、わりには顔が赤く見えるけど?」
「お前の幻覚だ」
俯いて顔を隠される。
そういえば、初めて会った時に言っていた。
「何者にも助けを借りず、かつ誰かに頼られる人間になりたい」と。
誰の助けも借りないなんて、不可能に近いのに、勝ち気で意地っ張りなコイツはそれを認めてない。
そしてそれを求めるあまり焦って、挙げ句八つ当たりされてるわけか。
迷惑な!
そう思いながらも、だけど悪態つかれるのが嫌じゃない自分がいる。
コイツの悪態は頼られてることの裏返しだから。頼られてることが、何より嬉しいから。
「……泣くなって」
ポンポンと頭を叩いたら思いきり払われた。
「泣いてないって言ってるだろ!!」
「そーかそーか、泣かない泣かない」
「ふざけろっ!」
ビュッという風切り音と共に、鋭い蹴りが脛に食らわされる。
「ぐぅっ……!」
思わず呻き声をあげ膝から崩れ落ちる。
恨めしげに見上げれば、仁王立ちしたそいつが睨み返してきた。
調子に乗ったことが本当にムカつくらしい、蹴りが襲ってきたので危なげに避ける。
そんな応酬を数十回繰り返し、互いに疲れてきたところでそいつが大声で高らかに言った。
「さっき表通りにあったパン屋の焼きそばパン買ってこい!」
「……は?」
「そ、それで許してやろうじゃないか!さっさと行ってきやがれっ!!」
「え?おいティシ……」
バタンッ!
何でと反論する暇もなく部屋に引っ込まれた。数秒間思考して、オレはやれやれと立ち上がり部屋から出ていった。
嫌いだとか、頼りたくないとか言いながら、人に頼み事をするとか。
そんなところも可愛いと思ってしまうなんて、オレは相当馬鹿だと思いつつ、焼きそばパンを二つ買った。
嫌いと好きと頼り頼られたい意識。
『おーい買ってきてやったぞ』
『何だ、気が利くじゃないかカシのくせに』
『ちょい待てゴラッ!なぜ二つとも持ってくんだ!』
『え?贖罪に買ってきたんだろ?ならボクのだし』
『ひとつだけなっ!返せ!』
『ふざけろっ!!』
++++++
ティクシアはものをはっきり言う子。だけど空回りが多すぎてたまにいじけてしまう子。
カシヤは惚れた弱味でそれに振り回されるといいよ←
