二人の日常




「せいっ!」

気迫と共に横薙ぎの一閃。でもそれはフェイントで、直ぐ様左足で地を強く踏み、右の膝蹴りで剣柄を狙う。

自分の使う剣が細く、競り合いを苦手としているのは百も承知。だからこそ、こういった小技で相手の気を削ぎながら攻める形を使うようになった。
そんな周りとは少し違う戦法なのか、技術の伸びなのか(自分としては後者であってほしいが)最近は練習試合で勝ち数を延ばせるようになった。

けれど、どんなに頑張っても自分は一番身近な彼に届かない。

今日も自分なりに考えた組み合わせで攻めを試みるが、

「あっ!?」

横薙ぎを抑えながらも膝蹴りを軽くかわし、エスリアの得物は呆気なくライドに弾き飛ばされた。


「うぅ〜ん……今日こそはそこそこの線をいってると思ったんだけどなあ……」
「……左足に力を入れるまでが長い……もっと早くしないと見切られる……」


端的な指摘に顔をしかめる。
確かにあの膝蹴りは左足に力を入れる際、微細な音を立てぬための調整に気を使った。そして、その分出が遅くなったのだ。

ライドの様子を伺えば、瞳がもう言うことはないと訴えている。
これ以上の対策はエスリアが自分で考え、自分で生み出すしかない。

「……もう日も暮れてきたし、ご飯食べに行こうかライド?」

こくりと頷いたのを確認し、一度武器を置くため自室へと向かう。後ろを見ればちょこちょことライドがついてくる。その姿に微笑ましく思いながらもう慣れた道筋を歩いた。



いつも通りの簡単な食事を済ませ、自室へ戻る。
エスリアとライドは相部屋で、しかも二人とも貧しい出なので、部屋には支給された必要最低限の物だけの簡素な部屋。

「ふぅ……」

一日の疲れを吐き出すようにベッドに腰かければ、ライドも続いて自分の寝具に腰かける。
そうすれば後は寝る準備なのだが、そこでも一仕事がある。


「ライド、ライド。シーツまだ敷いてないよ」
「……?」

首を傾げる少年に、自分のシーツを指差し、それをどう敷くか示す。が、

「……ライド、先に下か上を引っかけないと」
「……??」

シーツを固定しないまま引っ張るので枕側を引けば足側に皺がより、気づいて直せばまた反対に皺がよる。
エスリアが足側のシーツを固定してやると、やっとシーツを敷けたライドがぽすぽすとベッドを叩いてからころんと横になる。
いつも通りの行動に微笑ましさと気苦労を感じながら布団をかければ、ライドはミノムシのようにそれで丸くなった。

「エス……」

エスリアも布団に入ればそこに彼だけが使う呼称で名を呼ばれる。体をライドの方に向ければ、彼は小さな双眸を布団から覗かせていた。

「なに?」
「……明日……非番だよ、ね?」

うんと肯定しながらも、内心驚く。ライドが先の予定を把握しているなんて珍しい。彼は明日の仕事も、まして腕試しの機会である練習試合にすら興味を示さないのに。

「じゃ……明日……何してもいい日?」
「うん。そうだよ」
「…………エスのパン、食べたい……」
「僕の?」

きょとんと見つめればライドは小さく頷く。
パンなんて毎日食べているし、第一自分の料理の腕は並み程度でパンを作るのが得意なわけでもない。
けれど、


「……いいよ」

彼が人に頼み事をしてくるなんて滅多にない。それも事前に頼むなんて初めてのことで、それを自分に頼んでくれたことが純粋に嬉しい。

「……約束?」
「うん、約束だね。じゃあ……はい」
「……??」
「指切り。前に話したでしょ?約束するときにするんだよ」

布団から腕を出し、小指を立てれば、ライドも見よう見まねで小指を伸ばしてきた。それをこちらから指を絡めればおずおずと仕草を返される。

「約束だね」

笑って言えばライドは小さく目を細めて、もぞもぞと布団に潜る。話が終わった合図。

「お休みライド」
「……お休み」



次の日、余程楽しみだったのかいつもより早い時間に、いつもより何倍も鋭い速さと精度のはたきを頭に喰らい、エスリアの寝覚めは最高に良くなかった。


++++++
大体ライド12歳、エスリア13歳くらいの頃。
エスリアは毎朝ライドに頭を殴られて起きるので常に寝覚めは良くないです。


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