※過去の話
まだ幼馴染という肩書きだけで、難しいことも何一つ考えずに彼と一緒に遊んでいたあの頃。彼を呼び捨てにしていて、毎日のように遊んだのを今でも覚えている。
そんなある日、みんなが驚く事件が起きた。
『…あんた本当に馬鹿でしょ…ドーナツを口が裂けるまだ食べる人いる?3歳だったあの時はまだしも10歳になった今でも避けるまで食べる?また縫うなんて…』
「…うるせぇ」
彼が初めて口が避けるまでドーナツを頬張ったのが3歳の頃。そしてまたもや口の端が少しドーナツの食べ過ぎで裂けた。
まさか2度も口が避けるなんて……
聞いた時は本当呆れたものだ。男の子ってなんでこんな馬鹿なのだろう。そう思いながらも縫われた口元を優しく撫でる。
カタクリは私を睨見ながら文句を述べていたが、私の手を振り払うことはなかった。
『そんなに美味しかったの?』
「当たり前だろう、ドーナツは穴まで美味い、最高な食べ物だ。」
『私が作ったドーナツなのに?…料理長が作ったドーナツならまだしも…普通焼いたの全部食べちゃうかなぁ…』
目を横にずらせば沢山あったはずの私の作ったドーナツが全てなくなっていた。
そう、彼は私の作ったドーナツで口が裂けてしまったのだ。そこまで美味しくもないはずなのに。
『本当馬鹿だ…』
「おい、さっきから俺のことを馬鹿バカと…」
『だって本当の事でしょう…』
「名前、お前の作るドーナツは美味い。」
怪我したって言うのに、なんでこの人はこんなに私を褒めるのか、まだまだ自分の納得のいかないドーナツをここまで美味しいと言われると勘違いをしてしまう。
「…なんだ、不満そうだな。」
『そりゃあ…美味しさも見た目もまだまだなのに、そこまで美味い美味いって言われると何というか…もんもんとする』
「…満足いってねぇのなら、満足いくまで作ればいいんじゃねぇか。」
それはごもっともなのだけど、彼の言葉に直ぐにうんとは言えず、唸りながら首を傾げていると思い切りおでこを小突かれた。痛い。
『私がドーナツ焼いても、カタクリ以外誰も食べないでしょ。』
「俺だけでいいだろう。これからも全部食べてやる。」
『っ、そう言うの"おーぼう"って言うんだよ。歳いくつよ。』
「10だ。お前と同じ歳のはずだが?」
10歳なら本当2度も口が避けるまで食べないで欲しいものだ。頭を抱える私に幼馴染の彼は勝手に専属のパティシエになる様に言ってきたが、絶対になるものかと首を縦に振った。
「さま…さま…名前様」
『ん…?』
ふと、意識を浮上させると目の前にビスケット兵が立って居た。どうやら寝不足の影響もあり眠ってしまったらしい。
「名前様がお昼寝など珍しいですね。…それよりも、そろそろ準備に取り掛からないと15時のメリエンダに間に合い合わなくなってしまいます。」
『ええ…直ぐにでも取り掛かるとしましょう。カタクリ様のドーナツは作るのが大変ですから。』
いつのまにか、顔も合わせなくなり、呼び捨てにしていた彼を様付けで呼ぶ様になった今もなお、彼の為にドーナツを作っている。あの時の私はこんな未来想像して居なかった。
昔の夢を見た、まだ彼はあの時のことを覚えているだろうか。
会うこともなくなった私のことを覚えているだろうか。
今となっては私の作るドーナツは島中に配られているはずだろうし、彼がぜんぶ食べることもなくなっただろう。
仕方のないことだ。子供の時の様に何も知らず、彼との地位も考えなくても良いあの時とは違うのだから。
それでも尚、この事を覚えて居てくれたら良いなと思う自分がいる。本当にパティシエになったのだから。
『なんて…ね。』
「?名前様どうかなさいましたか?」
『いいえ、何でもないです。ただ…昔を思い出してただけですよ。』
首を傾げるビスケット兵を置いて、厨房へと足を向けた。
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好きな人の作るドーナツを全部食べたかったカタクリさんの話。