「おい!!名前!!!」
『何?!良平、そんな大きな声出して!ついにその声で悪魔でも召喚できるようになったの?!って、その柄シャツはキツいわ…』
「召喚できるわけねぇだろ…!ってそうじゃねぇ、ちょっと俺に手貸してくれ。」
昼休み勢いよく私のクラス入ってきたのは、幼馴染の林良平である。見た目、柄シャツ、あのドスの効いた声からして周りの生徒から怖がられている。
見た目とは違って別に悪いやつでもないし、なんだかんだで仲の良い彼は何かあると私の元へとやってくる。今日は何の用事だろう…また教科書でも忘れたのだろうか。
『はいはい、今日は何貸して欲しいの。』
「ちげぇよ…そんなんじゃねぇ。ちょっと着いてこい…!」
『へ?は、ちょ、ちょっと!!ぁぁぁぁぁぁ私まだお昼食べてるとこぉぉぉ、』
お弁当に手を伸ばす私の声なんて聞く耳持たないと、ぐいぐいと引っ張っていく。ひょろっとしているくせに何処にこんな力を持ってるのか。
そのまま引っ張られたかと思えばとある教室の前に連れてこられた。確かここは…
『…手芸部のとこじゃん』
「おう…お、俺アイツ苦手でよ…代わりに三ツ谷呼んでほしいんだわ…」
『…ほぉ…三ツ谷君…噂に聞く彼か…っておいヤンキー、一人でお友達くらい呼べるでしょ。』
ほら、頑張れー。と良平の背中を押してみるも彼は嫌々と首を振るばかりだった。なんだ此処にモンスターでも住んでいるのか。
どうしても嫌々と断固動かない良平に渋々折れたのは私の方だった。良平も恐る何かが居る手芸部なんて少しドキドキするが、仕方がない。私は思い切り扉を開いた。
『頼もーー!!此処に三ツ谷君っていますかー!用事があって参りましたー!』
「あーー!!もしかして部長のファンか何かですか!困ります!部長今忙しいので帰っ…って、ちょっと林君!また貴方なの!」
誰よりも先に私の声に反応して出てきた子は3組の安田さん。いつもハキハキと喋る子だ。
その子の目線が良平へと移動すると、思い切り私の後ろでびくりと身体を跳ねらす良平。
おい、本当にお前はヤンキーか。女子相手に何をビビっているのか。会話だって堂々といつもみたいに悪魔召喚出来そうな声で喋れば良いのに、あわあわと何を喋りたいのか分からない状態だ。
『えっと…すみません、安田さん。このあわあわしてるのがその部長さんに用事があるそうなので部長さん呼んできて頂けると助かるのですが…』
「苗字さん!林君いつもここに来て部長たぶらかすの!さっきも言ったけど忙しいから帰って!」
彼女の迫力に私も負けてしまいそうだ。私の方も言葉が詰まってしまい、どうしようかと思っていた所だった。後ろから、どうしたぁ?と優しそうな男性の声が聞こえた。
「部長!また林君が!!今度は苗字さんまで連れて来て!」
「苗字さん?…あー、まぁそう怒るなって安田さん。直ぐに戻ってくるから先にやっといて。」
彼がにこりと笑えば、部長がそういうならと私達を睨みながら中へ戻っていく安田さん。凄い、あんな直ぐに落ち着かせるなんて。
「悪い、苗字さんとぺーやん。何かあった?」
「三ツ谷…!いや、さっきドラケンから三ツ谷にこれ渡して欲しいって言われてよ…」
安田さんがいなくなったことでやっと落ち着いた良平が後ろからゆっくりと前に出てくる。どうやらミッション成功らしい。二人のやりとりを聞きながら二人の顔を見比べる。
三ツ谷くんは噂通りのイケメンだ。顔といい、声といい本当に良平と同じ不良の分類に位置付けられる人間なのだろうか。なんたって手芸部の部長である。性格もいいに決まっている。相手が気付かないのをいい事にマジマジと見つめる。
「?…あー、苗字さん俺の顔に何かついてる?」
『!あ、いや。そういうのじゃ…』
マジマジと見すぎたらしい私に気が付いた三ツ谷君と目が合ってしまった。何とか誤魔化そうとするのに見惚れてんじゃねぇのかと、横からヤジを飛ばしてくる良平を睨めば、ピシャッと体を硬直させる。
『いや、ほら…三ツ谷君って、良平と同じチームの子なんでしょう?ヤンキーには見えないなぁと…』
「ふはっ、そうか?俺一応東卍の2番隊隊長なんだけど。」
『隊長…はー…良平より強くて賢いのか。成程』
「おいコラ、テメェ俺を今馬鹿にしただろっ…!」
してないよ。と目線を逸らしながら話も逸らそうと試みるが良平がそれを許してくれなかった。なんで今日はそんなに食い下がるんだ。煩いと顔を押しのけると、三ツ谷くんがまた噴き出しながら笑い出した。
「はははっ、ごめ…いやぺーやんと苗字さんって、かなり仲良いから…なんか兄弟喧嘩見てるみたいでさ。」
『兄弟、けん、か…』
「こんな妹俺ぜってぇ嫌だわ」
『は。いやいや、私の方が嫌だよ?ってなんで私の方が妹なの』
逆でしょ逆、とまた騒ぎ始めれば、思い切り笑う三ツ谷君。なんだかツボに入ったようだ。そんな彼を二人で首を傾げながら見つめる。
「まぁ…確かに。どっちかって言うと苗字さんの方が年上って感じするし、ぺーやんが弟かな。」
「んだとごらぁ!名前より身長俺の方がデケェんだぞ!」
『なんでアンタの兄弟の定義、身長が高い方が上になるの…本当馬鹿…』
また笑い声が響く。頭を抱えながらちらりと見えた時計が昼休みが終わる10分前を指していた。
『あ!やっば、お弁当食べなきゃ!ごめんね三ツ谷君、良平。私はここで教室に帰る。』
「おー、こんな時間か。なら俺も帰るわ」
「嗚呼、二人とも気ぃつけてな。…あ、苗字さん」
バイバイと手を振り急いで教室に戻ろうとした時だった。突然名前を呼ばれ、首を傾げて振り向く。
「また遊びに来てな。今度はゆっくり話そーな。」
目の合った三ツ谷君はふわりと優しい笑顔を向けていた。
どきっと心臓が強くなる。あの顔はずるい…。
ひらりと手を振って部屋に戻っていく三ツ谷くんが見えなくなるまで目が離せなかった。
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ぺーやんに手芸部怖いなら夢主ちゃん連れてきたらいいじゃんと勧めてきたのは実は三ツ谷君だったりする。