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気づけば辺りには真っ白い草原が広がっていた。 空からはポツポツと雪が降り、 まるで新た に世界を壊し造っているようだった。その中に一際美しい黒く長く伸びた髪に黒いドレス、 そして黒い真珠のような瞳を輝かせる女が何かを待つかのように ただ立っていた。何を待っているのだろうか、と考えていると途端に少女がこちらを振り返った。 美しい相貌を創られたような笑みで埋めつくし、来ると思ってたと不気味なほど落ち着いた様子で言い放った。女は僕を待っていたらしく、こちらにゆっくりと近づいてくる。 この異様な状況に僕 はこれは夢だと確信した。しかし身体は言うことを聞かず身動きが取れない。
「じゃあ私のこともわかるのね」
わかるわけない。この女は何を言っているのだろう。 ただ悲しく笑いながら遠い空を見上げた。今まで雪が降っているものだと思っていたのだが、よくよく見たら灰であることに気づいた。また遠くから爆発音や大砲の発射音のような音が聞こえた。女は再び口を開いた。
「そう、信じがたいけど死ぬのね、私もあの人も…」
そう女は呟き、灰が吹き荒れ光が見えない空を見上げた。女はその儚さと同じくしてどうやら近いうちに死ぬのだろう。その原因など知らないが、 そんな中でも 女の瞳は切なさや儚さの中に安堵の情が感じられた。夢の中であるにも関わらずその女の仕草や表情に胸が締め付けられる。何故だ、という言葉が脳裏に過った 途端頭に大きな衝撃が走った。
「あ…おはよ?」
目の前に見知らぬ少年?少女?かどちらかわからないほと中性的な餓鬼が僕に目線を合わせるようにしゃがみこみ、悪戯っぽい笑みを向けていた。僕は天気がいい日に屋敷の庭にある木下で読書をしながらうたた寝をしていたようだ。そういえば読んでいた本はマリアンに勧められた戦争物の悲哀をテーマにしたものだった。きっと先ほどの夢もそれに影響されて見たのだろう。
「死んだかと思ったー!よかったー!」
僕が起きた途端に奴は声を高らげ本当に死んだのかと思っていたのか体温を確認するかのよ うに抱きついてきた。…なんだ!この状況はっっ
「離れろ!!」
「あまりに死体みたいに綺麗に寝てたから頭おもっきり叩いたんだー !」
「なんでそんな誇らしげなんだ!というか何者だ貴様!!」
途端に奴は動きを止めた。一瞬のことだった。笑みをひきつったように見えたがすぐに表情を戻したため気のせいだろう。しかし何故こんなにも僕は違和感を感じているのだろう。
「あっれー?リオン・マグナス君だよね?客員剣士様々の」
「何故」
「ヒューゴ様から聞いてない??」
「話を聞け!」
僕が声を荒げると奴何が面白いのか更に笑みを深く浮かべた。ふとヒューゴからは今週辺り に僕はいらないと言ったにも関わらず補佐をつけると言っていたことを思い出す。まさか…
「本日から客員剣士補佐に派遣されました。どうぞよろしく!!」
奴の清々しいまでの笑顔とは裏腹に僕はこの世の終わりのような表情をしただろう。そんな 僕に比べ奴はへらへらと、笑いながらそんな顔しないでよーと弱々しく言った。 ヒューゴから聞いた補佐といえばもっとしっかりしており僕よりも年がもっと上だと予想していた。なのにヒューゴはどうしてこんな奴を僕の補佐にしようと考えたのだ?
『坊っちゃん、この子名前聞かないんですか?』
「名前はねー…どうしよーかー??」
『えっ僕の声がわかるの!?』
僕の愛剣シャルティエは感情を持つソーディアンと言われる伝説の剣である。そしてその声を聞けるのはソーディアンが選んだマスターになる素質がある者のみである。 驚くのも無理 はなく僕もまた例外ではない。シャルティエの声が聞こえるのはこの世界でもほんの一握り の人間にしか聞こえないのだから。その声を奴は聞き返答した。 ヒューゴが奴を補佐にした 理由がその直後に嫌なるほどわかった。
「わかるわかるー!シャルティエだよね?! ヒューゴ様からお話を聞かせて貰ったんだー!!本当にしゃべるんだねー」
すごーい!と声をたからげながら奴は僕の腰に着けているシャルティエをまじまじと見る。 この無垢な奴はきっと近い内にヒューゴに道具として使われるだなんて思ってもないのだろ う。奴の深紅の瞳は輝いていた。ただ素質があるからヒューゴに気に入られてただけなのだ ろう。僕には関係のないことだ。僕はそう自分に言い聞かせた
『君は名前がないの??』
「名前は昔に捨てたんだ。 なんかいいのない???」
奴は相変わらずへらへらと僕に問うた。この瞳に言葉が脳裏に過った。確か昔の… 本で見た 今はない伝説の花だった。"ルトゥ"気づけば僕はそう口ずさんでいた。 正式な名前はもっと長いはずだがルトゥなんとかと続く名前だったはず。何故か僕はその花の名前を奴に向けていっていた。途端今まで大きく表情を崩さなかった奴が偉く目を見開き驚く。
「ルトゥ…そうか、……ハハハ」
奴は突然頭を抱えながら声を上げて笑い始めた。そして何がそんなに面白いのかしばらくの 間狂ったかのように笑い続けた。そして笑いが収まったと思いきや僕の両手を握り笑いすぎ たのか涙を浮かべた瞳を僕に向ける。
「ルトゥ…いい名前だね!!ありがとうっ!!」
「わかったから手を離せっ」
「君と会えた運命に感謝しよう!!うんっ」
「大袈裟だっっ」
「そんなことないよ!」
奴の頬に一滴の水滴が伝った。そして振り払おうとする手をより強く握った。 強く言う奴にまた先ほどと同じ違和感を感じた。この表情どこかでみたことがあるような感覚。しかし記憶を探っても奴に会ったことなどない。ましてやこんな電波な奴を僕はきっと忘れはしないはずだ。きっと気のせいだろう。 そんなことよりも明日から奴が僕の補佐につくという事実に頭 を悩ませていた。
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