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目が覚めると僕はスタン達がいた。聞かされた情報によるとヒューゴと奴は僕を置いていき、世界を征服すると神の眼を盗んだようだ。僕はヒューゴと奴を止めるために再びスタン達と海底洞窟へと向かった。その際にもあの黒髪の女のことが頭から離れなかった。しかし直感ではあるがあれは奴であり、そして僕は会ったことがあるのだ、それも奴をあそこまでさせるほどの何かがあったはずなのだ。なのに僕は何も思い出せなかった。
そしてこの時が来た


「ルトゥ!」
海底洞窟の奥地に数人のフードに囲まれた奴がいた。僕は声を上げた。

「リオン君、生きてたの」
振り返り僕を見る奴は見たこともないくらい冷たい瞳をしていた。

「お前、」

「怒らないでよね。それにルトゥじゃない。私はルクレツア」

『やっぱり』

「シャルティエはやはり気づいていたんだね」
突如奴の口からあれほどまで隠していた真名に驚いたのもつかの間、シャルが声を出した。他のソーディアン達はその名前に過剰に反応を示した。

「誰なのよ、あんたたち知ってんの」

『あぁ千年戦争時の敵大将の妹です。姿と性格が真逆だったから…でも』

「でっでも千年戦争って、そんなに生きれるはずないだろ?」

シャルの言葉を遮りスタンが当たり前の事を問うた。でも奴は違う。アイツには…


「レンズか」

「ご名答。復讐のためにここまで長らえてきたのさ。」

奴の胸元にはレンズが埋め込まれている。しかし単純にレンズのみでここまで生きてこれるというのか?しかも復讐?奴が僕に言ったことさえも嘘偽りだったというのだろうか。


「今まで、騙していたのか?!」

「…騙される方が悪いね」

「ぐっ…」

「ルクレツア、ここは任せたぞ。」

「はい」
奴はヒューゴの言葉に無機質な声を上げた。奴の返事と同時にヒューゴは他の仲間と背を向けて洞窟の奥に向かおうと足を動かした。奴の視線が僕と混じった。その途端奴はいつものように僕にほくそ笑んだ。その後奴は剣を鞘から抜き僕らと戦うのだと思いきや、なんと奴は背を向けたヒューゴに剣を突き刺した。


「っ」

「…ごめんなさい……っ」
奴はヒューゴに後ろから抱きつくように刺したと思われたが、倒れたのはヒューゴではなく奴だった。


「ふははは!!ルクレツア!相変わらず爪が甘い。この私が知らないとでも思ったか?こんなことだろうと神の眼でお前が裏切った時にお前のレンズが朽ちるように呪いをかけたのだ。」

「ぐぁっ…くそっ」
ヒューゴは苦痛にのたうち回る奴に蹴りを入れながら嘲笑った。

「リオン、あいつに情が湧いたか。千年前と同じだな。だが、お前には私は殺れない。」

「、」

「ルトゥを、離せ!」

「リオンそんなにコイツが大事か?だがもう遅い。」

「やめろ!」

「…リオン、こいつらを始末しろ。そうすればこいつを助けてやろう」

「…」
ヒューゴから言われた条件に僕は息を飲んだ。この選択は過ちなのだろうこともわかっていた。もうマリアンにも会えないこともわかっていた。スタン達にも許して貰えないだろう。だが僕はシャルを抜いてスタン達の前に立った。奴の声が聞こえる、やめてくれという悲痛な声が。しかし僕にはこの選択しか残されていなかった。奴を、ルトゥが助けたい、そして直接聞きたいこともある、それだけで僕は動いた。





「馬鹿なの?」

「馬鹿はお前だ」

「僕は死なないのに、なんで」

「なんでだろうな」

「今からでも間に合う、急いで」

「…」

「聞いてるのっ」

「足をやられた。もう走れないさ」

「っ、なんで、私なんか放っておけばよかったのに、なんで、」

「…本当だな。だが勝手に身体が動いた」

「…、本当に貴方って、そうやって…」

「後悔していない。きっと、必ず、何回でも、僕はこの道を選ぶだろう」

「ずるい」

「…結局お前のこと思い出せなかった」

「だろうね、仕方ないよ。」

「エミリオ」

「僕の名前だ。お前の真名を一方的に知ってるのも気が引けるからな。」

「…」

「お、おい、泣くな」

「だって」

「笑ってろ、お前は」

「!」

「笑った方がいい、」

「…こんなに幸せでいいのかな」

「最後ならいいんじゃないか」

「エミリオは幸せだった?」

「退屈はしなかった」

「素直じゃ、ないなぁ」

「ふん」

「…」

「ルトゥ」

「…まだ、その名前呼んでくれる、んだ」

「おい」

「…約束、守れなかった、でも」

「ルトゥっ」

「また、会いに来てくれないかな?」

「あぁ、ひっぱたいてやる。だから」

「あり、がと、」

「…」

「…次は、ちゃんと護る…から」

「…」

「…」

「…」

「おやすみ、ルトゥ。またな」


結局勝つ気もなかったがスタン達に敗北し、元々知っていた非常出口に誘導してやった。僕はここで死ぬ。そして奴もだ。結局聞きたいこと聞けずに終わるなんてまぁバカらしいと思うがなんだか清々しい気持ちだ。

なんだかコイツとは、また会えるんだろうな、なんて僕らしくもない事を考えながら眼を閉じた。





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