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「リオン君ってどうしたら、懐いてくれるのかな」

「お前は僕を犬か猫と思っているのか」
奴が僕の前に現れて数ヶ月がたった。奴はへらへらしていても仕事はこなす、そして僕よりも人間関係を築くのがうまかったものだから、すぐに街の人気者となった。あいつが歩くところには人が集り、周りの人を笑顔にしていった。正直、奴のことは好かなかった。あの苦労を知らず、平和な世界で生きてきたようなあのヘラヘラした顔を見る度に苛立ちを覚えるからだ。そんな僕の心境を知ってか知らずか奴は僕に絡んで絡みまくる。そっけない態度をしていると奴は意味のわからないことを聞いてきた。


「どちらかといえば猫?」
ヘラヘラした顔を僕に向ける。少なくともお前には一生懐かないと言わんばかりに無視をした。


「マリアンには懐いてるのに、僕には全然懐かないじゃないか〜。プリンいる?」

「いらん!僕に構うな!」
何故コイツ僕がマリアンのことを、というかプリンなんか、プリンなんかっ

「修行なら付き合うよ」

「いらん!」

「ならこうしよう。手合わせで勝った方の言う事を聞くことにしよう」
僕の思考がぴたりと止まる。もしこいつに勝ちさえすれば黙らせることができると思った。少なくとも奴が剣を持って使った所を見たことがない。それに苦労も知らないようなコイツに僕が負けるはずがない

「…乗った」
僕が賭けに乗ると言った途端奴はこの上なく嬉しそうな顔をした。笑っているのも今のうちだ。


と、思っていた

「負けた、こんな何にも知らないようなガキに」
結果は、僕の負け。しかも奴は表情を変えることなく、鋭い矛先を喉に突きつけ、また笑う。

「僕は、守りたいモノがあるんだ。そのためなら命なんか惜しくないくらいに。君もそうだろう?」
そして赤い瞳が僕を突き刺すように見た。今までの奴とは想定できないほど冷たい瞳だった。だがそれが奴の本性でありその言葉の重みがいかに重たいものか悟った。奴にも背負っているものがある。だがそれはなんなのかは知らない。それはきっと奴の言うようにどんなことでもやれるのだろう。

「それが似てると思うから、君とは仲良くしたいな」
すぐに奴はいつものようなヘラヘラした顔となる。そしてこいつとは断じて、似ていない

「…勝手にしろ」

『というかそんなに強かったんですね』
ソーディアンシャルティエがため息混じりで呟いた。

「んー、僕君より年上だからね。」

『えぇ?!』

「…お前幾つなんだ」
僕は今年で16になる。そして奴は僕と同じかそれより下だと想定していたが、年上だと。

「いやん、女の子にそんなこと聞いちゃだめん」

「は?」

『女?』
更に衝撃的な事実が僕の頭に衝撃を与えた。中性的な奴だとは思っていたが、僕が負けたことから男だと考えていた。というか、女に負けたのか、僕は。シャルが久々に甲高い声を上げた。

「やーい二人ともびっくりしてやんのー」

「本当に女なのか」

「え?脱いだらすごいけど見る?」

「見せるな!!」
僕は奴の頭を思いっきり引っぱたいた。奴は寄けることなくイターイと、ヘラヘラした顔をする。いつの間にか奴はこうやって僕と会話をしている。それが心地よいだなんて断じて思っていない。

「…ルトゥ、」
途端に空気が冷めていく。奴をヒューゴが呼んだのだ。

「ヒューゴ様!」
奴は嬉しそうにヒューゴに歩み寄って行った。奴は見る限りヒューゴに慕っていた。それもそのはずだ。奴は死にかけのところをヒューゴに拾われたと聞いてもいないのに言っていた。奴にとってヒューゴは命の恩人、ふと先ほどの奴の言葉を思い出す。きっと奴の護りたいモノなのだろう、だがヒューゴはあの薄汚い笑みの下で奴を利用材料としてしかみていないだろう。そして奴はそのことを知らない。同情、今の感情はそうなのだろう。バカバカしい。

「僕には、関係のないことだ」
僕にはマリアンしかいらないのだから


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