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「リオン君って、本当にマリアン好きだよねー」

「は?」
とある午後の鍛錬の休憩のことだ、マリアンが紅茶を入れている時奴はぼさりと呟いた。

「マリアンにだけにリオン君笑ってるんだもんなー。ジェラシー」

「お「お前には関係のない?」
奴は僕の言おうとした事を当てて、嬉しそうにやりーっと微笑む。
こっのっっ

「僕を愚弄するか!」
僕は奴の銀色の髪を引っ張り上げる。途端にいつも付けているフードが脱げ奴の顔が顕になった。奴は室内であろうと黒く不気味なフードを取ろうとしない。シャルが昔聞いたことがあるが、どうやら光に弱い体だそうだ。しかしフードが落ちたにも関わらず奴はニヤニヤして悲鳴を上げる。

「いてててて、怒らせることには天下一品なんだけどなー」

「それは否定しないがな!」

『ルトゥ、凝りませんねー』

「だって僕はリオン君と友達だものー」

「いつ誰がお前と友達になった!!」

「酷いわ!あの日の事は遊びだったのね!!」

「誤解を産む事を言うな」
あの日とは以前僕が奴に負けた時である。奴の望みは仲良くすることだ。しかしあれから僕は相変わらず奴には冷たくしていた。変わったことはただ鍛錬だけは突き合わせることにしただけ、それだけなのに奴はこの上なく喜んでいた。奴は僕の鍛錬にはいやいや言いながらも付き合っていた。そして悔しいことにまだ奴には勝てていない。もう一歩のところでいつもやられる。

「いい加減にしませんか、お二方」
僕の手を止めたのはこの屋敷のメイド長であるマリアン。白く好き通った肌に黒く艶やかな黒髪の彼女は、僕の大切な人だ。昔母親に似ているからとヒューゴに連れて来られ、僕の面倒を見てくれていた。昔は強く当たったこともあったが、それでも彼女は僕のことを世話し続け、その優しく真っ直ぐなところに惹かれた。彼女だけだ、僕の真名を呼んで、僕を癒してくれるのは。しかし次の彼女の柔らかな口から放てられる言葉に絶望した。


「リオン様、ルトゥ様も私からすれば友達ですよ」
注いだ紅茶を手渡しながらマリアンは微笑む。

「なっ」

「へへ、やったー」
奴の嬉しそうな声に手が出そうになったが、マリアンの目の前だと手を下げた

「僕はっ」

「素直じゃありませんね」

「ねー」
マリアンと奴が顔を合わして微笑む。いつからそんなに仲がよくなったんだ?!と心の中で叫んだ。そして奴にマリアンは甘かった。これは僕が奴に冷たく当たり、マリアンが奴をかばうからだ。挙句の果てに、素直になればいいのに、と呆れられる始末。マリアンに怒られる傍らで奴はしてやったりともいうような笑みをしていた。マリアンが紅茶の片付けにその場から立ち去り、僕の怒りのボルテージが限界になった時だ、エントランスから声がした。その声のする方へ目を向けるとヒューゴが大臣と話しながら客間に案内しているところだった。ヒューゴと僕は血の繋がった親子。だがヒューゴは出世のためには母や姉を捨てて、僕を客引きの道具として扱う屑。父として何かをしてもらったことはない。憎くて貯まらない相手だが、今僕が奴に逆らうことはマリアンの命が危険になることと類義してた。今は力が足りない。いつかヒューゴを潰しマリアンを開放すると心に誓い、また鍛錬に戻ろうと、ふと奴の方に顔を向けると何とも言えないような表情でそれを見ていた。

『ルトゥはヒューゴの事、好きなんですか?』
シャルがそう奴に問う。やつはおもむろにこちらを見た。

「…どうだろう、ね」
いつもなら、かっこいい!とか素敵!!とか言いそうなのだが、奴の目は悲しみに満ちていた。何故、と思ったが奴にとってヒューゴは好きと言わずとも何らかの特別な感情を持っていることは明白だった。その感情がヒューゴに利用されているとも知らずに。とりあえず、今までの苛立ちを力に変えて鞘で思いっきり奴を殴ったら、元のヘラヘラした顔に戻った。安心なんてしていない


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