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ここ最近になり、このダリルシェイドにて若い女の誘拐事件が多発しており未だに犯人は見つかっていない。身内の話によると人通りの少なくなる夕方から夜の間外出した女がそのまま消えるという。すでに行方不明者は12人と推定され、これらの共通点は街で有名な美人であるということだ。すぐに保安官達は夜間の警備をきつくし女の夜間の出歩きを禁じた。しかし犯人の足取りどころか被害は気づけば上記の人数だけではなく、犯人と抗戦したであろう保安官の死亡など、たった一ヶ月で行方不明、死亡者は30人近くまで及んだ。死亡者の解剖も行われた。死体には刃物など武器ではなく何かに咬みあと、爪で引き裂いた出血が多く見られまるでモンスターとでも戦ったような痕跡ばかりであり捜査は難航したそうだ。犯人はモンスターと巷では騒がれたがモンスターならば誘拐などせず保安官同様にその場で殺すだろうことから犯人は人間であると思われるがそれから大きな手がかりは掴めなかったよう。国としての対策として軍の派遣、つまりは客員剣士の導入だ。僕と奴は今回その連続誘拐犯の捕獲の命をかされた。そのまま夜の街で探すのだろうと安易に思っていたが、ヒューゴに作戦を立てられた。簡単に言うと囮作戦。現行犯で誘拐犯のアジトを特定し誘拐された人間の身柄の安否の確認をより早く行うためだそうだ。そして犯人に怪しまれないよう、保安官にまぎれ軍の人間数人と僕が入り
囮は奴で行うという。
「動きにくいなー」
「仕方がない。ま、せいぜい殺されないようにな」
「まかせて!もしもの時は守ってあげるからねー」
「何故この僕が貴様なんぞに守られなきゃいけないんだ!」
「もー照れちゃって」
「死ね」
「ひどー」
作戦開始数分前の会話とは思えないほどなんの変哲もない空気。奴は今回も黒髪のかつらをつけマリアンにより化粧などを施されていた。服はできる限り動きやすいものとは言い難く護身用の武器を隠し持つため厚着の村人風のロングスカートであった。
「まー泥舟に乗ったつもりでいたまえよ」
「つまりは沈めということか、」
「へへ」
「笑うな!」
「リオン様、この子守ってあげてくださいね」
「ふん、その必要はないだろ」
「今日はワタクシはか弱い町娘よ!さぁそこに膝まづきなさい」
「調子に乗るな馬鹿者!!」
ここまで奴との会話は正常だった。いざ、作戦が開始し相変わらずヘラヘラした顔で奴は暗闇に消えて行った。すぐに連絡用の簡易トランシーバーは忽然と連絡が途絶えた。つまりは犯人と遭遇し、緊急事態となったことを意味した。兵士たちがわたわたしている中、僕はこんなこともあろうかと感知機を奴の服に忍ばしていた。それは正常に作動できていたため、奴のいる場所へ走った。奴のがいると示した場所は使われていない倉庫だった。冷たい夜風が喉を通り抜けた。静かすぎるこの場所に僕は1つ嫌な予感がした。奴がもう既に死んでいるのではないか、と。ぐっとシャルを握り締め、倉庫に突撃した僕らを待ち受けていたのは驚愕した光景だった。
「これは、」
「早いねー」
倉庫の中は血まみれでいつものようにヘラヘラした顔の奴とその周りにはぐちゃぐちゃになったモンスターの山だった。この短時間で倒したのか
「黒幕はモンスターだったのか」
「ちょっと違うかなー」
「は?」
今回の事件はモンスターの仕業だったのだろう、と思いきや奴はそれを拒否した。だが死体の山はどう見たって人間とはかけ離れたモンスターだった。奴の言葉の真理が分からずモンスターの死骸に近づくと、奴が僕を呼ぶ声がした。振り返ると人間かと思いきや服を着たカマキリの様なモンスターが僕に襲いかかろうとしていた。その位置では急所は避けられないと思った直後モンスターの頭上から大きな雷が落ちモンスターは一気に焦げ原型を止めなくなった。これは、
「ふぅ」
「唱術、だと」
唱術とはシャルのようにソーディアンマスターがソーディアンを使うときにしか使えないはずのもの。当然、奴はソーディアンを持っていないはずだが、先ほどの雷は唱術であるものであった。
「バレちゃったテヘ」
「なんで、ソーディアンを持っていないお前が」
「…お」
「おい」
「おろろろろろろー?」
「おっおい?!」
何故だと詰め寄ろうとした時、奴の体はガクッと倒れそのまま気を失った。
「報告は以上だ。任務復帰は明後日からだ。僕はもう出るが体動かしておけ」
「聞かないの?」
「聞いて欲しいのか」
奴が目を覚ましたとの報告を受けたのは、あの事件の後処理が終わり数日がたった頃だった。あの後外傷がないか、調べようとした時だ、奴は気を失いながらも僕の手を払おうとしたが、なんとか胸元のフードをはいで胸元のまでボタンを開けた時だ、奴の体のことを知った。これは多分ヒューゴにしかわからないことだと直感したため、急いで奴を屋敷、ヒューゴの元へ運んだ。
「どうした」
「唱術をした途端倒れた」
「!…そうか、手当は私がやろう。」
ヒューゴにあらかたのことを説明した後、ヒューゴは奴を僕からすくい上げるように奪い自室へ運んで行こうとした際に僕はヒューゴに問う
「奴は大丈夫、なのか」
「疲れただけだろう」
「奴をあぁしたのはお前か」
「やけに聞いてくるな、情でも移ったか?」
ヒューゴがニヤリと笑いながら僕に問う。そんな筈ないと思うも先程見てしまったものが僕の思考を乱す。
「…それを望んだのはこれだよ」
ヒューゴはふうと息をついた後に出た言葉が僕の胸に突き刺さる。そして1人廊下で立ち尽くした。ヒューゴは、奴を…
「…リオン君」
「…」
ハッとした。僕は数日前のヒューゴとの会話を思い出していた。目の前には恐る恐ると言った様子で機嫌を伺う奴の姿があった。
「怒ってますよね?」
「あぁ」
「ごめんね?」
「僕が何故怒ってるかわかるのか?」
「この身体のこと黙ってたから?」
「違う。あの作戦から外れ何故一人で突っ走った?」
事件後にわかったことだがトランシーバーはモンスターではなく故意的に壊されたとの知らせを受けた。壊すように命令されたのだろうと表向きでは言われているが僕はそうは思わなかった。奴が壊したのだ。僕らに戦わせないために。
「犠牲者の傷から想像される犯人像としてモンスターと予想される。しかし現在確認されるモンスターに女性を、しかも美人だけをターゲットにするなんて知能はない。となると導き出される答えは1つなんだよねー」
「レンズを食した人間」
奴は目線を合わせずにうなづいた。
「まさか群れをなしてると思わなかったけどね」
「最初からわかっていたなら何故言わなかった」
僕の言葉に奴はピクリと反応した。
「あんな醜いもの君に見せたくないよ。あれは僕と同類だから」
笑いながら奴は自分の胸元をそっと撫でた。奴の胸元にはレンズが埋め込まれている、それも高純度のものだ。ソーディアンは高純度のレンズを埋め込みできたもの。それを人に埋め込んだのだアイツは。それなら僕と同じように唱術ができるようになったのなら理解ができる。今回の犯人も力を欲し自ら道端でのレンズを埋め込み半モンスターとなり自我や理性を失われた者達だと解剖結果が出たところだ。傍から見れば奴と今回の犯人とは同種なのは理解ができるが、奴は犯人達と違い自身の力を制御し自我を保っている。しかしヒューゴによるとソーディアンと違い生身の人間を媒体としているため唱術による体力消耗は激しく、いつ媒体に限界が来るかわからないらしい。もちろん奴もそのことは知っているはずだ、なのに何故奴はこうたでも苦しそうに笑う。奴はいつもそうだ。
「僕にとって、お前は最初から今後も屑で馬鹿で間抜けな人間ということは変わりない」
「…え、ひどくない?というか感動的な場面じゃないの今?」
「うるさい、くだらんことを考える暇があるなら倒れてた分の仕事しろ」
「うっ」
「あとその作り笑いはやめろ、気持ち悪い」
途端奴は驚きの表情を浮かべた。すぐにまた笑みを浮かべる。
「…ありがとう」
そして奴はそう言い放つ。窓からそよ風が舞いカーテンが揺れる。まただ。また僕は脳裏にデジャブのような感覚に陥る。しかしそれがどこでなのか思い出せない。
「…どうしたのー?」
「なんでもない。あともう唱術は使うなよ。また倒れられたら面倒くさい」
「それはデレ?」
「そんなわけあるかっ!!」
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