例えば、少し低めの体温だったり、重ねた肌の柔らかさだったり。俺の名前を呼ぶ声ひとつにすら、いちいち心地良さを覚える。それが恋で、そして愛だと知ったのは、名前と出逢ってからだった。
俺は別に女に困った事は無かった。頼んでもいないのに言い寄ってくる中には可愛いと思う子や良い子だって居たと思う。だけど、自分からこの人が欲しいと思える人は居なくて。それは何事にも熱が高い方ではない自分の性格のせいでもあったんだろうけど、これからの人生で自分が誰かに強く惹かれる事なんて無いと漠然と諦めていた。



『れーん、』


「ん?」



そんな俺を意図も簡単に変えたその子は、風呂上りで濡れた髪の毛のまま俺の所にやって来た。



『髪の毛、乾かして。』


「ふ、はいはい」



甘え上手な名前は、不意に些細な事を頼んで来てはそれに応える俺に嬉しそうに笑う。甘える彼女が可愛くて、その笑顔が愛しくて、一緒に居られない時の分まで目一杯甘やかしたくなる。
柔らかいベージュの髪にドライヤーの風を当てると、自分と同じはずなのに酷く甘く感じるシャンプーやボディーソープの香り。



「伸びたね、髪。」


『んー。切った方が好き?』


「名前なら何でもいい。」



綺麗に伸ばされた指通りの良い髪。俺の言葉に少しだけ目を丸くして照れ臭そうに笑った顔は可愛すぎて、もうこのままここで如何にかしてしまいたいくらい。



『蓮って本当人たらし。』



乾かし終わってドライヤーを片付けていると、後ろから抱き付いてくる名前。



「名前には甘い自覚はあるな。」


『わたしにだけじゃないでしょ。』


「お前それ本気で言ってんの」



後ろを向いて華奢な身体を抱き締めると、ぎゅっと背中に回る細い腕。
彼女に甘くて何が悪い。大体、俺をこんなに好きにさせたのは名前なのに。
大きなアーモンド型の瞳も、小さな唇も、真っ白で綺麗な肌も、初めて会った時から今だってずっと目が離せない。



「こんなに可愛がってんのにまだ分かんない?」


『蓮はみんなの王子様だもん。』


「でも名前の彼氏じゃん。名前の前では普通の男で、普通の彼氏。」


『…うん。』



寂しがりで、弱くて、それを隠すのが上手な名前は、きっと俺を支えてくれているその裏で、俺の知らない涙を流してる。
少しずつでも良い。俺の前で泣いたり怒ったりする事が増えていけば、俺達はもっと深く愛し合える。
相手の弱ささえ知りたいと思う日が来るなんて、昔の俺が聞いたら笑って効かないだろう。



「名前」


『ん?』


「愛してる。」



見上げた綺麗な顔にキスを落とす。おでこ、瞼、鼻先、頬、最後に唇。触れる度に恋をする、こんなの、知らなかった。
ゆっくり唇を離して見つめると、潤んだ瞳に堪らなくなる。



「俺の全部、名前のものだよ。」



どうなったって君を愛さないなんて俺には無理なんだ。いつか全部伝わったら壊してしまうんじゃないかと思うほど大きな想いでも、不安にさせてしまうくらいなら隠さずに注いでいいんだろ?
覚悟して、ずっと俺の傍で愛されて。



やわらかな溺愛

その裏には、燃えたぎる熱情