重たい意識を擡げて、ゆっくりと瞼を開く。
脳がぐるぐると回るような感覚が気持ち悪くて、思わず顔を顰めて深く息を吐く。
「儚?」
『…千空』
隣で座っていたらしい千空が、私の顔を覗き込む。
「まだ顔色悪いな。」
『ごめん、私…』
「大丈夫だ、気にすんな。」
しなやかな手で私の頬を撫でた千空。
学校から一緒に私の家に帰ってきたものの、朝から体調が優れなかった私はすぐにベッドに横になってしまった。
千空は文句ひとつ言わず寄り添ってくれた。そう、きっと私が寝てからもずっと。
「寒くないか?」
『うん、平気。』
「そうか。」
『何読んでたの?』
千空の太ももには分厚い本。いつも難しい本ばかり読んで、感想を話す千空は楽しそうで私も嬉しくなるけど、内容を理解する事はできない。
「医学書だ。」
『千空は知らない事があると嫌なの?』
「クク、バーカ。そんなんじゃねえよ。」
千空は科学の知識に長けている。長けているという言葉では収まらない程に。
それから派生してか医学にも興味があるようで、熱心に色々と調べている所をよく見る。
「儚、俺、」
『ん?』
額に当てられた千空のひんやりした手が心地良くて、ゆっくりと目を閉じる。
「…医者になろうかな」
『…千空』
「そしたら儚がどんな時でも俺が診てやれるし、治してやれるだろ?」
目を開けると、伏し目がちに微笑む千空は、優しい顔で私を見ていた。
白い肌に白い髪、高い鼻にガーネットの瞳。細いけど逞しい体、落ち着いた声。
知性に満ちた頭脳と綺麗な容姿を持つ彼が、私なんかの為にそんな事まで考えてくれていたなんて。
『だから最近、そういう本ばかり読んでるの?』
「ああ。ったく、気付いてたのかよ。」
『ふふ、照れる事ないじゃない。』
腕を引くと首を傾げる千空をじっと見つめると、片方の口角を上げて上半身だけ私に覆い被さる。
優しく触れたキスは暖かくて、もっと千空の事を好きになる。
『ありがとう。そんなに私の事を考えてくれて。』
「当たり前だろ、んな事。」
『でもね、千空、』
「あ?」
すぐ近くにある千空の顔の輪郭をなぞると、くすぐったそうに片目を閉じるのが可愛い。
『お医者さんも、勿論とっても素晴らしいけどね、千空の頭の中には、宇宙よりも壮大なものが広がってる。私の体は、今もう既にいる誰かが治してくれる。だけど、千空には千空にしか出来ない事が、沢山あると思うの。』
「……」
『千空がお医者さんになったら、色んな人の命を救う。手に取るように分かるよ。でもね、私は…私は、貴方と宇宙に行きたい。貴女の考えてる事を、少しでも一緒に感じたい。』
「儚…」
『それじゃ不満?』
「クク、お前の望む事に不満なんかあるかよ。」
楽しそうに笑う千空はまさに不敵。
私の髪を耳に掛けて、耳たぶに音を立ててキスをする。
「お前の体を誰かに任せるのも癪だけどよ、俺に安心して委ねられねえってんならしょうがねえな。」