BTSとしてデビューして9年、ユリと出会ってもう10年以上が経つ。

一目惚れだった。
今よりずっと幼くてあどけなかったユリに、一瞬で心を奪われた。

好きな人と同じグループという複雑な気持ちのままデビューして、多くの時間を一緒に過ごせる事、才能に溢れたユリと一緒に活動できる事が幸せだった。だけど、決して伝える事が許されなくなった距離感が憎くもあった。
ユリ対する、メンバーとしての愛情と、1人の男としての愛情。
葛藤して、どうしたらいいのか分からなくて狂いそうで、それでも、ユリが好きで何としてでも守りたい気持ちだけはずっと変わらなかった。


そんなある日、俺とユリは一線を超えた。

ここ数年でやっと少し落ち着いたものの、ユリに対する批判の声はあまりに酷いものだった。その量も、内容も。
根も葉もない噂、面白可笑しく書き立てられたゴシップ、行き過ぎたファンの行動に、ユリの心は何度も何度も壊れて。
強い気持ちを保とうとどんなに頑張っても、心無い一言は刃物よりも鋭い。バランスの取れない頭と心に、いつもギリギリの所にいた。
仕事の時は痛々しい程気丈に振る舞っていたけれど、帰ってくると一言も話さずメンバーにくっつき回っていた。
俺たちに心を開いてくれていた事が、不幸中の幸いだった。


宿舎では1人部屋だったユリだけど、少しの時間も1人にしておくのが危険な時期もあった。そんな時、一緒に寝る事が多かったのは俺で。
その頃にはもう、お互いに特別な気持ちがあるとは分かっていた。

俺の手を握って、抱いてと見つめてきたユリは、儚くて今にも消えてしまいそうだった。



「…ユリ」


『……本当に、世間に言われるみたいにさ、メンバーとでも他の誰とでも見境なくそういう事するようになれば、こんなに苦しくないのかな…』


「ユリ…、」


『そんなんじゃない、違うのにって。私はただこの場所を愛してるのに、どうしてそんな風に言うのって。どんなに私がそう訴えたとしても、世間の目は変わらない。だったら、いっその事事本当にそんな人になってさ、そうだけど何?って思えるくらい強くなったら、そしたら…』



涙を堪えるユリを抱き締めると、堰を切ったように泣き噦った。

小さな身体で、繊細な心で、あまりに耐え難い現実の中に必死で立とうとしているユリ。
BTSのメンバーに選ばれたのも、グループの中でも目立つポジションに居るのも、ユリの努力の結果以外の何物でもない。
それでも世間はそれを、枕営業しているだの、メンバーに色目を使って優遇してもらっているだの、好き放題に騒ぎ立てる。

本当のユリを知っている人たちがユリを認めたって、今そんな事言ってる人達を見返すくらいの場所に上り詰めようと励ましたって、1日1日が限界なユリをただ追い詰めるだけだろう。



「…俺は、ユリが大事だよ。自暴自棄になったユリを慰める為だけに抱いたりなんか、出来ない。」


『…』


「っていうのが、メンバーとしての気持ち。」


『…うん』


「本当は…いつかユリに好きな人が出来てさ、それは俺以外の、もしかしたら俺が知らない誰かで…そんな事考えたら、おかしくなりそうになる。」


『グク…』


「俺はユリを、俺のものには出来ないから…。ユリが苦しくなった時に頼ったり、求めてくれるのが俺だって事が、どうしようもなく切ないけど、どうしようもなく嬉しい。」



このままユリを抱けば、名前の付けられない関係になってしまう。だけど、明日からも何も変わらない自信があった。
だって、俺の気持ちはそんな軽いものじゃないから。俺達の絆は、愛は、そんな程度のものじゃない。



「誰にでも身体を預けるなんて事、しないでよ。ユリは、それで強くなれるって本気で思うような子じゃないでしょ?」



仮にそれが本当に答えだったとしても、ユリはそんな事しない。
大切なメンバーを困らせたりする様な事は、絶対に選ばない。些細な事でさえ、迷惑を掛けたと気にする子なのに。



「ここに居るのが不安なら、居る意味が分からないって言うなら、俺の為に居てよ。」


『グク…っ』


「好きだよユリ、愛してる。」