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「ん、おいで」



当たり前のように広げたハニの腕に当たり前のように収まって、当たり前のように包まれる。
身体の隅々までがぴたりと合うような感覚。何もかもがお互いの為に造られたみたい、そんな馬鹿みたいな事を本気で思ってしまうくらいに。



「ユリ、」


『…ん、』



名前を呼ばれてハニの顔を見ると、そっと重なった唇に心がどうしようもない幸福感で満たされる。



『ハニ、ジョンハナ…』


「うん、ユリ」



好き、好き、大好き。ハニしか要らない。



『ん、ね…ハニ、』


「ん?」


『……』


「ユリ?」


『…もっと、ハニが欲しい。』


「っ……」



最近、ずっと考えていた。

私達がお互いに気持ちを伝え合ってから過ごしてきた時間はそんなに短くはない。それなのにハニとはキスまでしかした事がなくて。

普通の恋人同士なら、きっと。

だけど、怖くもあった。
手を繋ぐ事も、ハグもキスも、一緒にお風呂に入る事も抱き合って寝る事も、小さい時から私達の間では普通だった。だからこうなってからだって、別に自然にやってきた。

でも、この先はどうだろう。踏み込んだ事のない領域。兄妹という言い訳を最大限に使っても、いや、だからこそ、許されない。誰も許してくれるはずがない。
本当に世界に背いてしまう事になるんじゃないのか。大好きなお母さん、お父さんは、どう思うだろうか。

それでも。例え両親に、世間に軽蔑され、神様に嫌われて地獄に落ちる事になったとしても。

私は、この人のこの服の下の温度が、肌が、知りたい。



「………自分が言ってる意味、分かってる?」


『…やっぱり、だめ、だよね…』


「…なんで、」


『え?』


「俺はユリが好きで、ユリも俺が好きなのに。…何も、ダメなんかじゃないよ。」



自分自身にも言い聞かせるようにそう呟いたハニの表情を、この先一生忘れる事はないのだろうと思った。

控えめに小さなキスをしてこの上なく優しい顔をしたハニを見て、さっきまでの恐怖も不安も、どんどん和らいでいくのが分かった。



「ユリ、初めて?」


『…うん。』



ふわりと笑ったハニは、額同士をこつんと合わせた。



「…嬉しい。他の誰かがユリに触れてる事想像して、気が変になりそうだった。」


『…ハニじゃないと、嫌だったから。』


「俺も、俺だけじゃないと嫌だ。」



ハニはきっと初めてじゃないんだろうなというのは何となく感じていた。そしてそれはきっと当たっている。
私達は、お互いの事なら何だってよく分かってる。



「…ありがとう、ユリ。」



愛してる。

その言葉への返事は、ハニの唇に攫われて。

世界で1番幸せだと思った。何を引き換えにしても離れたくない。ねえハニ、ハニもさ、そう思ってくれてるといいな。





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