サブマス






「なまえさん」
「なまえ」



 右側からはしゃきりとしたいつものノボリさんの声。そして左側からはふんわりしたクダリさんの声。これがなにを意味しているのか、こたえは・・・・・正直、わたしもいつのまにかこうなっていたのだからわからない。

ただ、ひとついえることは。わたしがとてもピンチだということ。だって右側を陣取るノボリさんはわたしの右手をやんわり、だけどしっかり握っていて、はたまた左側を陣取るクダリさんはわたしの腕をぎゅうぎゅうだきしめている。サブウェイマスターふたりにはさまれて・・・・すなわち、サブウェイサンド・・・


「なまえきのうもシングルトレインに乗ってた!」
「ですがなまえさまは初戦で敗退し、帰って行かれました」
「そのなまえを呼び止めておはなししてたのボク、モニターでみた!」
「・・・みた、後に邪魔をしにこちらへ来たでしょう」
「でもなまえとふたりじゃなかった」
「それを言うならばあなた一昨日なまえさまとおひるをご一緒してたでしょう」
「だからきょうはボクのなまえ」


 あああ、ばかなことを考えているうちにも口論が始まってしまっていた。うう、どうしよう。こんな展開、いまどき少女漫画でもないよ・・・(たぶん)わたしのために争わないで!ってちょっとだけ、ほんのちょっとだけ言ってみたいけれど言ったところで冷めた目で見られるのがみえているから言わないでおく。うーん・・・・とりあえずわたしを挟んで顔を寄せ合わないで・・・!そっくりな顔が間近に並んでいてすこしだけこわい。というかまずは手をはなして欲しい、なあ、とか・・・・



「なまえ!」
「なまえさま!」
「は、はい!」
「ボクか」
「ワタクシか」
「えらんで!」
「くださいまし!」
「えええ!」


 ・・・いつのまにやら急展開。こんどはわたしがぐいぐいとふたりに見下ろされ、なんだか泣きたくなってきた。なにこの圧迫感!っていうかえらぶって!これならふたりで口論してくれる方がましだった!



「あの、わたし・・・きょうはジャッジさんに用があって」
「・・・・ふむ、ならわたくしがお付き合いしましょう。メモなら任せてくださいまし」
「ボクがいっしょに技構成とか考える!ニックネームも!それからそれから・・」
「クダリ、いまのはわたくしが先でした」
「そんなの関係ない!なまえはボクの!」
「あの、二人とも」
「先ほどからなまえさまを物扱いしないでくださいまし、それにわたくしのものでございます」
「ノボリも物扱いしてる!」
「あの、話を」
「とにかくクダリ、貴方はまだ書類が残っていたでしょう。おとなしく戻ってくださいまし」
「それ期限まだ!いまはなまえのほうが大事!ノボリこそさっきクラウド呼んでた」
「ああ、それならば先程済ませたので問題ありません」


 だめだこの人たち・・・・聞く耳をもってくれない・・・!!さっきからあちこちからの視線がいたいし・・・・なんか、なんか、気のせいかもしれないけれどわたし、サブマスふたりをはべらせている悪女みたいに見られてるような気もしないこともな、い、 誤解、誤解なんです・・・・・!!!

とはいえ、いまだってノボリさんもクダリさんも口論を続けているし、わたしの手だって離す気配はない。・・・・・・ん?んん?な、なんか、クダリさんの手が腰にまわされて、っていうか!抱きつかれてるうううう!!?



「くっ、くくくクダリさ、なっ、なにして」
「そ、そのようなことをこんな公衆の面前で・・・!お、おやめなさい!なまえさまからはなれるのです!」
「やだ!きょう一日ボクの!」
「わ、わかりました、わかりましたからはなれて・・」
「やったー!!はなれる!なまえなまえなまえ!きょうはボクのなまえ!!」
「なっ・・・!」


 ぱっとはなれて万歳したかと思えばまた抱きついてほおずりをするクダリくん。やんわりと押し返しながらも心のなかで大きくガッツポーズをした。やっと、やっと解放される・・・!バチュルちゃんを厳選できる・・!まっててバチュルちゃん!

・・・・しかし、ジャッジさんのほうへときびすを返した瞬間背後に突き刺さる負のオーラ。


「・・・・・今日だけはわたくしも引き下がれません」
「の、ノボリさん・・・?」
「ノボリ往生際わるい!」
「おだまりなさい、なまえさま・・・わたくしではいけませんか?」
「なっななななにを言ってるんですか!」
「わたくしではなまえさまに相応しい男にはなれないのでしょうか・・・?」


ぎゅうっと両手をひとまとめに握られ、おまけに顔もぐっとちかづけられ、かつてないほどに心臓がざわついた。な、なにこれ。なにこれ!


「え、えええ、そ、それって」
「お慕いしております・・・なまえさま・・・」
「ええええええ!!?」
「あー!!ノボリずるい!!」
「可愛らしいおかおで、純粋で・・・無垢なように見せかけて実は廃人で、わたくしに圧勝する姿に心から驚き、そして惹かれました・・・」
「え、そ、それ褒めてるんですか」
「勿論褒め言葉でございます、それからBP目当てとはいえ恐ろしく、反則ともいえるパーティーでわたくしを確実に殲滅するそのお姿・・・何度思い出してもわたくし、胸が熱くなる次第」
「わ、の、ぼりさ、」


 な、なんだか素直に喜べないけどノボリさん・・・そんなにわたしのことを・・・・・・!たしかにその頃のわたしのあたまのなかはレッドカードやだっしゅつボタン、かえんだまのことしかなかった、ような。種族値の暴力ともいえる力でノボリさんをねじ伏せたような気もしないような気もする。

ノボリさんはまるで壊れ物を扱うかのようにわたしの手を握った。わたしは・・・吸い込まれるように彼のほうへ二歩、三歩、とすすみ・・・・・・かけたところをうしろから伸びてきた手により阻止された。



「やだ!なまえいっちゃやだ!ボクもなまえがすき!なまえ大好き愛してる」
「クダリ!!また貴方は・・!」
「ノボリばっかりずるい!やだ!やだやだ!みるだけで心臓がぎゅってなって!どきどきばくばくして、とにかくすっごい死にそうになるの、なまえだけ!」
「く、だりくん、くるし・・」
「ごめん!!なまえ潰れてない?いたくない?」


 クダリくんに抱き潰されるとこだった・・・・!そんな死因、冗談じゃない。だけど弱まっていた力はまた時間が経つごとに明らかにつよくなっている。


「なまえさま、こちらを見てくださいまし!」
「わ、の、ノボリさん!?」
「なまえ!こっち」
「く、クダリさん」


 あ、あれーー!?
右側にはノボリさん、左側にはクダリさん。サブウェイサンド、再び。す、すっかり冒頭にもどってるううう!?

でもこんどはちょっぴり積極的!?左側のノボリさんはわたしの腰に手をまわして、さらにもう片方の手は反対側のわたしの頬をなでている。だっだめだよ!手袋にファンデーションついちゃうよ!
あ!?
右側のクダリさんも負けじとわたしの右手をしっかり抱き締めて、あいた手はわたしの後頭部に。
わたし、ただジャッジさんに用があってきただけ・・・・・だったよね?なのにこんな風に二人にがっちり拘束されて、そりゃあその・・・ちょっとはときめいたり、も、した、けど!けど!こんなのひどい!



「ノボリさん、クダリさん!」
「どうしたのです?」
「もしかしてこたえ、決まった!?」
「成る程、ではなまえさま。こころおきなくこのわたくしか、クダリか、選んでくださいまし!」


 ずいずいと両側から顔を近づけてくる二人。・・・・あの、かるくホラーなんですけど!そんなことより!

わたしはすう、と息を吐く。すこしのあいだ沈黙がながれて、ふたりがごくりと息を呑んだ。



「ふ、二人とも大嫌いですーーー!!!!」
「ええええ!?ボクも?ボクのことも嫌いなの?」
「そんな・・・なまえさま、どうしてですか!わたくし納得がいきません」
「とにかく嫌いなんです!はなしてください!わたし、ジャッジさんに用があってきたんです!お二人とも邪魔しないでください!!」
「うっ・・・・なまえ、ごめんねごめんねごめんね!ボク、ボク、謝るから、だから嫌いにならないで」
「だからすぐそうやって抱きつくのやめてください!」
「ご、ごめん!ううう、なまえ・・・」
「申し訳ございません、わたくしとしたことが少し大人げなかったですね」
「ノボリさんも!さりげなく手を握らないでください!っていうかもう二人とも近寄らないで!」


 そう言って二人を押し退けると、意外にもふたりともよろめいて後ずさった。・・・・放心してるみたい。すこしだけ罪悪感をかんじるけど・・・わたしはわるくない!自業自得だ!・・・・・・でもすこし、かわいそうだったかな?







・・・・・・・その後、ジャッジさんが二人のサブマスから尋問にも近い質問責めにあったことをわたしは知る由もなく、久しぶりにお願いしにいったわたしの顔をみた途端顔が青ざめたジャッジさんに首を傾げるのであった。


20111208
修正:20150927

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