※Liar番外




「え・・・・・・仁王くん、やすみ?」



 突然のバレンタイン終了のお知らせ

・・・・に、救いの手を伸ばしてくれたのは柳生くんだった。バレンタインだっていうのにラインは昨晩から時がとまったままで、文字通り連絡もないわたしの恋人、仁王くん。・・・の、親友?である柳生くん。

 じつはわたしたちの間にはちょっとした縁があって・・・・柳生くんにぞっこんだったわたしはいま現在仁王くんと付き合っている。・・・といっても柳生くんはいまとなってはいい友達で、あとぐされなんかなく・・・というかそんな関係だったわけでなく。むしろ仁王くんとのお付き合いにあたって様々な面から助けてくれる心強い味方になってくれているのだ。

 だから、今回も例外ではなく・・・柳生くんは当然のようにわたしを仁王くんの家へ案内してくれることを申し出てくれて、いまに至る。


 なにせ突然学校にこなくなるかも、なんて噂が流れてるひとなんだもん。・・・百歩譲って今日みたいなことがあったとしても、彼女のわたしにくらい一言いってくれればいいのになー・・・なんて、すこしは思うわけで。



「みょうじさん、着きましたよ」
「・・・あ、うん」



 ・・・いけない。すっかり考え込んじゃってたみたい・・・!慌てて顔をあげるとそこにそびえ立つのはどこにでもありそうな、普通の一軒家。仁王けんは独り暮らしだって、勝手に想像してたんだけど・・・そうだよね。中学生だしね。妙に納得しながらインターホンを鳴らす柳生くんの後ろに立つ。

 ・・・・お母さんがでてきたりして?なんて、緊張の面持ちで迎えた結果、でてきたのは・・・・私服に身を包んだ仁王くん。



「それでは私は帰るとします。仁王くん、あしたはきちんと来るんですよ」
「わざわざどうもありがとう、柳生くん」
「いえ、喜んでくれるといいですね」



 わたしたちの突然の訪問に驚く仁王くんを差し置いて、柳生くんはくるりと踵をかえす。・・・明日もう一度改めてお礼をしないと、そんなことを考えながらわたしも柳生くんの背中を見送った。

 そして、振り返るわたしに突き刺さるのは仁王くんからのいたいほどの視線。いきなり休むからびっくりしたんだよ、そう告げたわたしに彼はただ短く家に入るよう指示をし、背を向けてしまう。

 ・・・・ん?家?冷静になった途端、とんでもない展開になったことに気付いて焦ったわたしは思わず仁王くんの背中とおうちの表札とを二度見するけれど・・・それ以上声がかかることはなく。むしろ、益々追い詰められるばかりだった。バレンタインに会えないなんていやだって思ったし・・・チョコも渡したいから柳生くんのお言葉に甘えたんだけど、だけ、ど、なんていうか、すぐにどっかに出掛けるのかなって・・・思ってたから!
 こ、こんなのきいてない!立ち止まったままパニックに陥るけれど鞄のなかにいれたままのチョコがそれを許すはずはない。
 ・・・・・・・・・・大丈夫、緊張せずにいつもどおりに。



「・・・おじゃまします」



 結局、結論をだしてからもまごついていたわたしが敷居を跨いだのはそれからすこしあとだった。無駄に慎重に靴を揃えて、だしてくれたスリッパをはいて・・・それから、ようやくおうちの中がえらくしんみりしていることに気付いた。
それとなく聞いてみれば仁王くんはこちらを振り向かないまま、なんでもないようにただ一言だれもおらん、とだけ言って・・・・・それから仁王くんの部屋に案内されるまでお互いに黙ったままだ。

 に、仁王くんのおへや・・・・ベッド・・・・!・・・ダーツボード・・・!・・・・ダーツボード!?そういえばいつだったか、趣味はダーツだっていってたっけ。に、似合いすぎなんだけど似合いすぎてなんかくやしい!
 ぐるりと見回す風景は当然見慣れない、真新しいものばかりで。たったそれだけで、なんだかしらない仁王くん・・・っていうのか、・・・このシチュエーションだからか、わからないけど、緊張する。



「・・・・見すぎ」
「・・あ、えっと・・・仁王くんの部屋はじめてで、つい・・・・・・っていうか!今日はどうしたの?・・・風邪、じゃなさそうだし」
「ちょっと野暮用で」
「・・・ふうん」



 動揺からか、饒舌になってしまったわたしを気にする様子もなく、仁王くんはいつもよりすこし低い声でそういうと再び部屋に沈黙が訪れた。とりあえず、わたしは用意してくれたクッションに腰をおろして行き場のない視線を揺らす。
 ・・・・・・・野暮用ってなんだろ。バレンタインに関係すること?・・・・なんて、思い付かないし。っていうか仁王くん、不機嫌・・・・?気のせい、じゃないし・・・・うん、明らかにそう。小さく深呼吸をし、めげずに口をひらくわたしに仁王くんは・・・・



「あの、それでね、仁王くんに会えなかったらどうしようっておもったんだけど偶然柳生くんが・・・」



 わたしを、壁に押し付けた。
あまりに突拍子のない行動にぴしりとかたまるわたしを、仁王くんがみおろし・・・目を細める。
 その眼差しがなんだか仁王くんじゃないみたいで、わたしは思わず息を潜めた。



「・・・・に、お・・・くん?」



 どうしたの、
その言葉は遮られ、かわりに深く口付けられる。おまけに、壁に押し付けられた手首は力強くて・・・抜け出せそうにない。
 あたまが真っ白になっている間にもそのまま舌を差し込まれ、肩をひくりと震わせる。

 いつもは優しく髪をなでてくれて・・・・それがキスをする合図なのに、今日は腕は縫い付けられたままで、仁王くんもあんな調子で・・・・・・
じわりと涙が滲むのに、なんでだろう・・・・キスはすごくやさしい。



「・・・・・ん・・・っ・・・、に、仁王く・・・」
「・・・・は、・・・・ら」
「聞こえな・・」
「・・・・なまえは俺のなんじゃけど」
「えっ・・・!」
「ちがうん?」



 離れてすぐ、仁王くんはなにかをぼそりと呟いて・・・慌てて聞き返すと、今度ははっきりとそう言った。
視線がからみあって恥ずかしいけど・・・・そらせない、そんな空気。



「ち、ちがわない・・・けど、・・・どうしたの」
「・・・・・」
「柳生く、んむ」



 まさかまたキスされるなんて思わなくて、目を見開く。仁王くんはそんなわたしにも構わず唇をあまがみして・・・驚いて口をひらいた瞬間に舌を差し込んだ。
それに、それだけじゃない。そのまま太股をゆるゆる撫でるから・・・くらくらする。

 それから少しして・・・今度はふわりと抱き締められて・・・・目を丸くする番。



「あ、あのね仁王くん」
「わかっとるんじゃ」
「・・・え?」
「・・・・今日、なまえから以外のチョコ、受けとりたくなかったから学校休んだ」



 仁王くんのすこし掠れた声が直接耳にとどいて、どうにもくすぐったい。
それに・・・・わ、わたし以外からチョコ受けとりたくなかったから休んだ・・・って!



「まあ・・・・今日は部活もなかったし、そのくせ音楽はあるし・・・・・それはそれとして、いまからなまえを迎えに行って驚かそうと思ってたんに」
「・・・・うん」
「やぎゅーの隣におって、なんかショックじゃった」



 なるほど、さっきまでの仁王くんの様子の理由がようやくわかった。わたしだって、同じ立場だったら例え仁王くんを信じていたとしてもきっともやもやしちゃうもん。
 ・・・・でも、"あの"仁王くんがそう思ってくれたんだって思うと・・・・・どうしよう、うれしい。



「・・笑った」
「・・・・だ、だって!・・・その、チョコの件もうれしかったし、」
「一途じゃろ」
「でもさぼりはだめだよ」
「・・・ピヨ」
「・・・・あと、わたしは仁王くんがすきなんだからね」
「・・・・もう一回」
「っも、もう言わない!それより、」



 そう言ってチョコレートを手渡すと・・・・仁王くんの表情はわかりやすく柔らかくなった。それが可愛らしくて、わたしもつい頬がゆるんでしまう。



「・・・俺のために作ってくれたん?」
「う、うん・・・・そんなにうまくは作れなかったんだけど・・・でも、愛はたくさんこめました!」
「・・・・・・だめじゃ、かっこよくおりたいんに」
「ふふ、仁王くん顔ふにゃふにゃだね」



 一緒になって笑っていると・・・不意に仁王くんが真剣な顔でこっちをみているのに気付いた。疑問符を浮かべるわたしと、なにかを考え込むような仁王くんと視線がかちあって・・・そして、
気付けば後ろは壁、目の前に迫る仁王くん。ものすごくデジャヴを感じるんですけど、もしかしなくても・・・・・




 さっきのつづき、
それだけ囁いて・・・ゆっくり近付いてくる仁王くんに、わたしはそっと瞼をとじたのだった


20140210
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