「お前・・・えげつないことをするな」


 東堂くんは顔を真っ青にしながら・・そして、うまく笑えてなんかない、ぎこちない笑みを浮かべてそう言った
わかってくれると思って話したのに、なにこの反応。少なくともわたしの友達はみんなわかる、と語尾をあらげて共感した上にわたしよりもすごいエピソードが数々飛び出したというのに・・・
これが女子と男子の差なの



「さすがに荒北の自尊心はズタズタだろうな・・・」
「そうかなあ」
「俺なら間違いなく寝込むぞ・・・」
「ヤストモはつよい」



 どこか聞いたことのあるフレーズに自分でにやにやしていると、いよいよ東堂くんはため息をついてしまう。

 アレだ。些細な喧嘩にちょっぴり、ほんのちょっとだけ腹をたてたから以前みつけてしまった荒北くん秘蔵のアダルトビデオを引き合いにだしただけ。そう、それだけだったのに・・・妬いてんのぉ?だとかそんなことをいいながらにやけ面で荒北が迫ってきて・・・・
それで、わたしはなんとなく枕元においやられたアダルトビデオのパッケージであられもない姿を晒す女の子とみつめあっていて。・・・・それで、それで・・・


 どうしても言いたくなった。・・・わたし的にははじめに発見してそっと元の場所にしまった時からずっともやもやしていたことが不意に解決した瞬間だったのだ。


 その女優新開くんににてない?
って。その一言で全力で否定する荒北くんと、譲らないわたしとで新たな争いがはじまった。・・・それも、元々の喧嘩なんて小さすぎて忘れてしまうほど。



「・・・にてると思ったのになあ。正直今年三番目くらいの衝撃だった」
「しょぼいなお前の一年・・・」
「逆だよ!あの新開ちゃんがすごいの」
「・・・しかしだな、女子がそのようなはしたない事を口にするのは・・」
「あっ・・・」
「今更ショックをうけるな!」



 だってああいうのはなんというか、許容範囲内だった。たぶん完全に荒北くんのじゃなくてシェアしてるやつっぽいし。そういう男子高校生じみた荒北くんはむしろかわいかったのだ

 だけど、なにをどう間違えたか荒北くんと最後に言葉を交わしたのはそのとき以来で、ラインのやりとりだってわたしが荒北くんの家に訪問する間際で終わっている。

いつもなら授業中にくだらない話したり、お互いのツボにはまったシュールなスタンプで埋め尽くされているのに・・・
履歴を辿るたびにどうにも荒北くんが恋しくなっていく。わたしはとんでもないことをしたんじゃないかって、そんな気持ちになっていく



「なにをしているのだ」
「・・・お手紙書いてる」
「なになに・・・あ、ら、き、た、く、ん、ご、め、ん、な、さ、い・・・?」



 思えばわたしはどうにも素直になれない性分で・・・今だって、仲直りしたいのに、方法がわからないでいる。だから、わたしなりの手段でまずは気持ちを伝えることにした。不器用にちぎったルーズリーフは、たちまち文章で埋まっていく。

 おかしな日本語が組み合わさり、作文のような文体になっていくそれを、最初は声にだして読んでいた東堂くんも黙り込んでしまい、最後には頭を抱えた。失礼なやつだ



「だいすき荒北くん、・・っと」
「まあなまえらしいといえばなまえらしいが・・・」
「チョロ北くんに伝わりますように・・・」
「俺をポスト代わりにするな!!」
「そういいながら席をたった東堂くんはどこへいくのかな」
「どうせ前を通るのだからな!これくらい朝飯前だぞ!」



 そのかわり、きちんと仲直りするのだ!
そんな風に言い残し、出ていってしまった東堂くんの背中を見送って・・・ため息をついた。

 手紙をよんだ荒北くんはもしかしたら次の時間にでもわたしを訪ねてきてくれるかもしれない。彼はああみえて優しいのだ。

 それまでにいくつか台詞を考えておこう。そうおもい、頭のなかで懸命に言葉を構築するわたしは近付く影にちっとも気付かなかった。



「悩み事か?珍しいな」
「し、新開くん」



 顔をあげればそこに新開くんがみおろしていて・・・
失礼なことに例の女の子が脳裏にうかんで、変なかおをしたかもしれないわたしを新開くんはなにも気にしていない様子で一枚の紙を差し出した。



「靖友から」
「・・・手紙?」
「意外性、あるよな」



 ・・・・・中身をのぞくと、小さな紙に窮屈そうにおおきな字が並んでる。特徴のある男の子っぽい字はたしかに荒北くんのものだ

 わたしの手紙の返事、という雰囲気でもない。だってあれはさっき東堂くんに渡したばかりだ

 ・・・・・ということは、



「・・・メールでいいのに」



 なんだか恥ずかしくなったわたしの小さな悪態はただの照れ隠しだった
やだなあ。ただの偶然なのに、こんなにうれしいなんて。



「ありがとう新開くん、巻き込んでごめん」
「喧嘩したのか?」
「うん、ごめん・・」
「なんで俺に謝るんだ」



 チャイムが鳴り、新開くんを見送ったあと生徒手帳にそっと手紙をはさむ。

それから、教室にはいってくる先生を横目に机のしたで携帯を操作し・・・バカ、とだけメッセージをおくった。
ずらりと並ぶアイコンから荒北くんを見つけ出すのだって、もうお手の物だ


 はやく会いたい。そんなおもいが募るなか、あいた左手はポケットのなかにおさまる生徒手帳を撫でた。


20140729
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