神にほくそ笑む

※ほぼ万才



「キミはさァ」
「ウチの弓彦のどこが好きなの?」

「……」

唐突過ぎて心臓が口から飛び出るかと思った。
目の前の雲よりも高い地位に顕現されるお偉いさんは、ジッポライターの焔色がゆらゆらと揺れる後ろでニヤリと厭らしく、怪しく笑っている。
社会見学と称して学校行事で検事局に来ただけなのに、なぜこうも運悪くこの方と二人になってしまったのだろう。
くそう、弓彦くんめ。のうのうとトイレ行きやがって、あとでアイス奢らせてやるからな。

「う、うう…き、君みたいな頭のキレる子が側にいてくれるのは嬉しいんだけどね…、よく分からないんだよねー。あのバカと一緒にいる理由」
「……優秀な人間は優秀な人間と群れる。バカはどれだけ優秀な人間と群れてもバカが目立つだけなんだよ」
「あの学校にいればそのくらい分かるよね?」

「………」

しばらくだんまりを決め込んでいるが、ハッキリ言って気が触れそうだ。

初めてこの人を見たとき、息子を見る態度がすごく気に食わなかったのを覚えてる。
大して愛してもなさそうな口ぶりで人を語り、群れを語る。理不尽に捻じ曲げた正義で人の善悪を裁定して、罪を突きつける。
そんな姿がすごく気に食わなかったのをよく覚えている。

この人もこの人で、恐らく何かしら私のことを気に食わないと思っている。
そして、何の脅威にもならず、すぐに消せる存在とも。

「……出会ったから、では駄目でしょうか」

「……」

「出会ったから、それで好きになったから一緒にいる」
「他に理由が必要なのでしょうか?」
「あはは、すいません。私もバカなので…よく分かりません」

「………面白いねェ」
「いつか分かるよ。あのバカのせいで君は死ぬより辛い思いをして地獄を見る。一生、後悔して憎くて憎くて仕方がなくなる」
「その時思うんだ、もっと頭の良い人間といればよかったってね」

「……好きだから大丈夫です」

「ふーん」

「好きだから辛いときもあるし、好きだからずっと一生、後悔するし憎い。でも愛してるから後悔もしないし幸せです、私は彼にそんなものを貰いました」
「ただの感情論ですけど……」
「好きだから辛いことがあっても、それがどんなものでも、乗り越えてみせます」

「う、う…そ、そっか……その強気もいつか崩れ落ちると思うと、感動的だねぇ」

今にも心臓が口から吐き出そうだ。
とても恐ろしくて怖くて一瞬上がった口角に、今にも足場ごと崩れてしまうのではないかと不安になる。
まだまだ及ばない。だけどまだ、だ。
いつかその足場をめちゃくちゃに崩して、罪ごと、気に食わないことを全て、突きつけてやろう。
ピンチのときほどふてぶてしく笑え、だ。
強がってそう笑ってみせる私に、それを見抜いてるかのような薄ら笑いにそう誓った。






君を確実に破滅させることが出来るならば、たった一人愛した男の為に僕は喜んで地獄を生き抜いてみせよう。




リスペクトしている作品のセリフを活用してみました。