呪いを願いに変えようか

※5話 裁判後



全部、終わったわけじゃない。
オレが倒れたコイツを抱きかかえたその時、ミカガミが連れて行かれた。ミツルギ検事とみんなはそっちに向かった。まだ謎が残っているって。

誰も信じられなくなって、誰もオレの話を聞いてくれない、誰の話も聞きたくないってそう思ったとき、ミツルギ検事が道を指し示してくれた。

そして、思い出させてくれた。

今、病院のベッドで横たわっているずっとオレが相棒って勝手に言ってた女のコは、オレの話をちゃんと聞いてくれてた。オレのことをバカにしたことなんてなかった。オレが間違ってたらこっそり教えてくれてた。
ずっと、ずっとオレの為に戦ってくれてたんだ。親父に殺されてたかもしれないのに、ずっとオレが正しい道を歩めるようにボロボロになりながら戦い続けてくれてた。

「う、ゔぅ、オレの、オレのせいで…」
「ひっぐ、ず、オレが、いっぱい無理させたから…」

「あー、ピザ美味しい。日本のご飯ってなんでこんなに美味しんだろ」

「ぅ、ぐ、ひっ、あんなにいっぱい血流して、証拠品、ぇぐっ、持ってきてくれてぇ……」
「親父の部下にっ、殺されそうになって……ぇぐ、ひぐ、ぇ、うぇええん……」

「はぁ……あんまり泣くと過呼吸になっちゃうよ。苦しいでしょ」
「もう大丈夫だって。あれから何時間経った?御剣検事、大丈夫かな」

「ぐす、6時間くらい経った、よ。ひっぐ、目覚めたら、連絡してほしいって、ミカガミに言われたから…ピザ頼むのと一緒に連絡してきた」
「……………っ、ずび、あの、あのさ」

「なに?」

「い、色々、ありがとう。お、おれ、オレの……ひぐ、ゔ、ぅえ、ぅ、ためにぃい゙……」

オレが泣いたらダメだって、本当は分かってる。そんなの分かってるさ。ミカガミにも言われた。オレが泣いたら絶対にダメだって、オレの為にたくさん痛いことや怖いことを我慢してくれてたんだって。でも、涙を止めようと、泣いちゃダメだと、そう思えば思うほど、ぼやける視界に頭や首から肩にかけて巻かれた白い包帯が何故かよく映えて見えて、涙が止まらなくなる。
学ランの袖も太もものとこも、涙がぼたぼたと止まらないせいでもうびしゃびしゃで最悪だ。かっこ悪い。本当、最低だオレ。

「はぁああ……またそれ?目覚めてからそればっかだね。何度目?」
「あんまり泣かないでよ。そんな顔させたくて頑張ってたわけじゃないんだよ」

「ゔぅ、ひぐ、でも、でもぉ……」
「オレ、なんにもお前にしてないし、役立たずだし、オレが勝手に相棒とか呼んだ、からっ……」

「うーん…そうじゃないんだけどなぁ。確かに弓彦くんには色々と技量と見合ってないものはあったけどさ」

少し血で滲んだ白い指が耳と髪の間に入ってきてくすぐったい。親指が涙を拭ってくれて、それでもダバダバ流れていく水滴が白い包帯を汚してく。いてて、なんて呟きながらおでことおでこがくっついて、互いの前髪が絡み合ってこんなときなのに心臓がバクバクと跳ね上がって仕方がない。

「何でも一生懸命だったでしょ?」
「そういうとこが大好きだったから、これからも一生懸命でいて欲しかったから。そんな弓彦くんを見ていたかったから頑張ったんだよ私」
「弓彦くんが頑張ることが嫌いな私を一生懸命にさせたんだよ」

唇なんてあとほんの数ミリでくっついてしまいそうでお互いの吐息が感じれるほど近い。子どもを宥めるみたいに髪の毛を撫でられて、顔に熱が集中して舞い上がるほど嬉しいはずなのに、涙は全然止まってくれない。

「ぇぐ、す、き…?っ、おまえが、オレを…?」

「うん。好きだよ」
「そうじゃなかったらここまでしないよ」
「勝手に呼んでてよ、相棒って。これからもずっと」

「ぅ、ゔ、っ、オレも好き、ずっと、ずっと、ひぐ、好きだったぁ……!」

「うん。知ってるよ」

「ぐす……オレ、いつになるか分かんないけど、お前の相棒にふさわしい、本当の、一流の検事になりたい。だ、から」

「うん」

「その、っ、オレと、ゔぅ、ずっと一緒に居てほし、い……ひっぐ、頼りない、けど、お前のこと守れるように頑張る、から」

「うん、弓彦くんが望むならずっと一緒に」

まだまだ全然。きっと程遠い。
自信は、ない。でも、諦めたら一生後悔するって、だから辞めたくないって、頑張りたいってちゃんと伝えてきたんだ。
これからも何度もオレは助けてもらうと思う。
だから、せめて見守ってて欲しい。
オレがどうしても離せなかった願いがいつか叶うその時まで。







※後でお見舞いに来たミカガミさんとメイちゃんにピザの空き箱を見られて悲鳴を上げられた末にボコボコに怒られます。