事件file〜天女奇譚〜
「私、きっと殺してしまったんです。知らないうちに」
「気を失う寸前、声が聞こえました。男の人の……耳を劈くような痛いくらいの叫び声……」
「私が、霊が入ったあの人の体を……斬っちゃった……のかな…って」
「やめろよ!!」
「お前、やってないんだろ!」
「なんでやってもいないのに、そんなこと言うんだよ!ちゃんと自分は犯人じゃないですって言えよ!」
「そうだよ!霊が暴走したって、そんなの悪いのは幽霊なんだよ?!しかも降霊術サークルなんてすごく怪しいし、絶対そのサークルに何かあるに決まってるよ!」
「ぅうう……弓彦くん………美雲ちゃん……」
「本当は何人かいる知り合いの弁護士さんが裁判についてくれるはずだったんだけれど…刑務所の中にいたり、死んじゃってたりして…頼みの最後の一人もついこの前、引退してしまって……」
「それは……なんとも不運、だな……」
「お前の周りの弁護士どうなってんだよ、全員アクトク弁護士ってやつなのか……?!」
「困りましたね……シガラキさんは浮気調査で県外だって言ってましたし、ミツルギさんの知り合いに他に弁護士いないんですか?」
「私の知り合いもついこの前引退したばかりだ」
「……弁護士の引退時期なんですか?今って」
「弁護士なんて待ってられないよ、このオレがお前の無実を必ず証明してそこから出してやるんだ!だから、大丈夫だぞ!」
「………」
「弓彦くん、まるで弁護士みたいだね。ちょっとびっくり」
「……でも、すごく嬉しいし頼もしい……その、ありがとう。私、弓彦くんのこと待ってるね」
「う、うん………」
「うわぁ……イチヤナギさんから恐ろしく強烈なアマァ〜イ雰囲気が出てるのに、ガラス張りの向こうにある笑顔の裏にただならぬ暗い感情が読み取れます………」
「降霊術などという現実離れした儀式の最中の殺人事件だ、希に見ない例外で逮捕され不安しかないのだろう。仕方あるまい」
「(しかし…実際に起きた事件であり、事実だ。そして、私も彼女もその例外という奇跡を知っている……現状としては非常に分が悪い……)」
「あの……御剣検事」
「ム、なんだね」
「儀式には私の親戚たちがついてたんです、重要参考人として今も現場にいます。その、御剣検事もよく知る方ですので、その人に協力を仰いでください。必ず……力になってくれます」
「あのお前をちっちゃい頃から面倒みてくれてるっていう親戚か?」
「そう、その……弁護士の助手兼事務所副所長ももやってたくらいの優秀な方だから……」
「そんなすごい人が味方ならもう超心強いですね、良かったじゃないですか!」
「というか、なんでミツルギさんもそんなすごい人と知り合いなのに今まで隠してたんですかぁ!」
「これなら、相棒もすぐ無実確定だな!運が良いなオレたち!」
「(……果たしてこのメンバー、その弁護士助手の親戚……いい流れにいくだろうか……)」
「承知した、私も彼女の話を聞きたいと思っていたところだ」
「よぉうし!じゃあいっちょ行きますか!葉桜院へ!」
「おう!」
「あ、あと!弓彦くん!」
「んー、どうした?」
「あの、親戚の子!特に…えっと、小さい天女みたいに可愛い女の子の言うことは真に受けちゃダメだからね!絶対!何言われてもぜーーったい聞いちゃだめ!流して!むしろ名乗らないで!!」
「そ、そんなにか……?」
「その子の話は御剣検事に任せて!弓彦くんはお話しないで!本当に、絶対、絶対だよ!!分かった?!?!!」
「お、おう……?わかったぜ」
「その天女みたいに可愛い親戚の子、そんなに性悪の恐ろしい子なのでしょうか……」
「……恐ろしいほど純粋すぎる可能性だってあるかもしれない」
※この後、天女のような可愛い親戚(9)に赤面不可避なくらいの熱い純愛を語られ恥ずかしくて泣いた17歳。