女〜ベゴニアの花編〜




「現場の証拠品は隅々まで捜査するんだ。見つけ次第、オレへの報告を怠らないように!」

「「「はい、イチリュウ検事!」」」

「この事件もオレが一番に解決だな!さっそく、親父に報告しないとな」

彼が一生懸命なのは見ていても理解出来た。

だがその中身は酷く幼くて、この場に相応しく、そして適しているのかと問われればそんなこと、周りも見ていれば言わずとも明白だった。



♢♢♢



「……お疲れのようですわね」
「目元が真っ黒で髪の毛も乱れております。身嗜みはしっかり整えてから、上の者の前に立つことをお薦めしますわ」

特別な人間だけが入れるその部屋。
子どもながらよほど、あの方に目をかけられているのでしょう。
それを知っていてなお、英知と、執念と、女という武器を使ってふてぶてしい笑顔で佇み、逆らい、刃を突き立てる。とても勇敢で恐ろしい、若さ故の罪な活力。
だけど、それを、その行いを、恐怖で震えて泣いている姿を、貴方の活力の全てである彼は何も知らないのだ。

「………すみません」

「彼も……貴方をとても心配している」
「法の神も貴方の行いを見逃しているうちに身を引いた方がよろしいかと」

「……もう、引き返せない」
「ここで逃げたら、殺される」

「………」
「貴方はまだ子どもなのです。どれだけ賢くても、愛するものの為だったとしても……まだ守られるべき側の人間なのです」

「…………」
「…………じゃあ」
「弓彦くんは、誰が守ってあげるの?」

「……!」

「守られるべき人も守ってくれないくせに。何が法なの」
「……神さまなんて信用……ならない」

震える声に、足にムチを打って立ち上がる。フラフラと覚束ない足で歩き出したその拍子に揺れる前髪から見える真っ暗な希望の兆しの見えない瞳。

秤に掛けたとて、価値が違いすぎる。
もし、貴方の行いが最悪の形で良い結末に転んでも彼は喜ばない。
それは若さ故の、罰になってしまうのだから。

だが、自分にそれを止める権利は何処にもない。
何処にもないのだ。

自分の家族にその手が伸びたら?
血は繋がっていなくとも、目には見えない強い繋がりすら、知らぬうちに絶たれることがあれば?
法の神すら目を瞑る深淵に触れ、陥れられたら?

きっと何もできなくなる。
一人で立ち向かうには、あまりにも、それはあまりにも手に余るもの。
貴方や私が、一体どれだけ大きな存在と戦っているのか、分かりますか?
そんなの分からないわけがない。

そんなことは分かっているのに。

何故、こうも煮え切らない想いばかりが募っていくのでしょう。
おお、神よ。
いつか正解のないこの問いに答えを出すことはできるのでしょうか。



若さ故に罪という恋の活力に駆け、
若さ故に罰という愛の活力を知らず。