巣食い広がる蕚



「弓彦、入るよ」

「おわ、オヤジ。どうしたんだ?」

「いやね、この子、エネルギー切れしちゃって資料室でぶっ倒れちゃったから運んできたんだよ」

大きめの毛布に包まれてて見えなかったが、オヤジに近づいて腕の中を覗くとなんと相棒がいた。
オヤジがデカイのか相棒が細っこいのかわからないけど、眠っている顔を見るまで全然気づかなかった。

「しばらく弓彦の執務室で休ませといてくれる?弓彦の部屋が近かったから連れてきたんだけど、ぼくはまだ調べものがあってね」

「いいぜ、しっかり面倒みといてやるよ」

俺の執務室にあるでっかいソファにオヤジが相棒を下ろして出ていく。
相棒は一流だからな、オヤジにも必要とされてるのかすごいなぁ。
青い顔をして眠っている姿を眺めていると、寝苦しそうに眉を顰めてる。あんまり寝れてないんだろう。オヤジと一緒に仕事してるならきっとそうなんだ。
オレの中の大好きな人たちが仲良くしてると、オレも嬉しい。オレもいつかそこに混ざりたいと思う。きっとその分だけすごく大変なんだろうけど、それならオレも一流の更に上へ上へと登っていくしかない。

「ぅ、う……」

「お、相棒起きたか?お前、資料室でオヤジといるときに__」

「……っ!触らないで!!」

なんとなく苦しそうな呻き声が聞こえて、毛布がもぞもぞと動くのを見えた。声をかけて肩に触れようとしたら、ものすごい勢いで飛び起きて何故か思いっきり手を引っぱたかれる。

「いでぇっ!!び、びっくりしたー……どうしたんだよ、オレだよ!」

「っ、……ぇ、あ、ゆ、弓彦くん?なんで……?」

「お前が資料室で倒れたって、オヤジがここに運んできたの!!オヤジに感謝しろよな!」

「……ぁ………ああ……そ、っか、そうだったね。うん、そうだった………万才さんにメイワクかけちゃった、あ、はは。ありがとう弓彦くん」

ひどく怯えた顔に乾いた笑いだった。
なんでだろう。
眠れていない?ただ疲れているだけ?
よくわからないけれど、なんかそういうのじゃなくて。

「お前、顔真っ青で汗酷いぞ?なんかあったのか?」

「いや特に何もないよ。疲れているだけ、あの人についてくの大変なんだ」

「だよなあ、オヤジの仕事だからな。でも、一流は体調管理も整えられてこそ一流なんだからな!しっかりしろよ」

「……うん、そうだね。ごめんね、弓彦くん」

目を細めて笑う姿に、胸の中のモヤモヤは全然晴れてくれなかった。
オヤジの仕事は一流だから、ついていくのが大変。ただ、それだけ。本当に、本当にそれだけ?
オレたちの仲なんだから、なんかあったらなんでも話せよって言えばよかった。なのに、何故か喉につっかえてそれが出てこなかった。
ほんの少しの不安と心配。

これが小さな綻びを知らず知らずのうちに広げているなんて誰が思っていたんだろうな。

いや、オレが知らなかっただけで、もうずっと、今、オレがいる場所みたいに暗闇が大きく、取り返しがつかないくらい、広がってたのかもしれない。
ずっと近くにいたのに知らなかったなんて、虫が良い話だよな。