記憶処理限度



「えーっと、君は何くんだっけ?」
「ごめんね、名前と顔覚えるの苦手で……」

「同じクラスの太田だよ…」

「あ、弓彦くんの後ろの席の子か!思い出した思い出した」
「えっと、それで何か用かな?」

「あの、今日のこの後空いてるかな…?」
「その、どうしても教えて欲しいとこがあって…き、君は確か犯罪心理学のレポート評価が良かっただろ…?」

「それ、評価が一番良かったのは弓彦くんじゃなかったっけ……?忘れちゃった」

「い、一柳の評価がいいのは」

「それに今日の放課後は弓彦くんとファミレスにレモンケーキ食べに行くんだ。ごめんね」

「え……えっとじゃあ、明日は?」

「明日は弓彦くんと気になる事件の裁判の傍聴に行くんだよね、長引く審理だと思うから、明後日も同じ約束してるんだ」

「しゅ、週末は……」

「週末はダメかなあ。今週は弓彦くんとお城に行く約束してるから」

「城?」

「うん、海外から集めたテディベアや香水がいっぱい飾られてるんだって」
「犯罪心理学ぐらい他にも評価が高い人なんていっぱいいるし、その人たちに聞いたほうが早いよ」
「私ほとんどなんとなくで、授業のノートも提出するやつだけ弓彦くんに写させてもらってるし」

「え、いや、そうじゃなくて、じ、実は……」

「じゃあ弓彦くん待たせてるから行くね、ばいばい」


♢♢♢


「おっ、終わったかー?」

「終わったー」

「なんの用だったんだ?」

「なんか教えて欲しいとこがあったんだって」

「それならオレに聞けばいいだろ!なんでそうしないんだ!」

「ね、なんでだろ。授業ちゃんと出てる人に聞いたほうが早いのにね、よく分からん」
「そんなことより、あのファミレス、レモンケーキと一緒に期間限定のフルーツパフェも出るんだって」

「へ……た、確かに、テストでワンツーフィニッシュで並んだら奢ってやるって言ったけど、そんなにダメだぞ!お腹痛くなっちゃうだろ!」

「えー、レモンケーキも食べたいけどパフェも頼んだら一人じゃ食べ切れないなあー。誰か一緒に食べてくれないかなあ。最強の相棒とかが一緒に食べてくれないかなあ」

「……し、仕方ねえなぁ!付き合ってやるよ!」



人の脳は覚えられる物事に限度があるので大事なこと以外は基本的に忘れます。私はそんな貴重な物事の記憶範囲に「聖徳太子の楽しい木造建築」や「終末」を敷き詰めてます。悲しいですね。