司法解剖報告書

※ただ書きたかっただけのクソバッドエンド注意


「イチヤナギくん、見つかったそうだ」

「………!」
「ど、どこで?!いま……いまどこで何してんだアイツ!会わせてくれよ!」

「………」
「イチヤナギくん」
「落ち着いて聞きたまえ」


相棒が死んだ。
親父の部下に追い詰められて、腹を自分で刺したらしい。
何を思ってそんなことしたのかなんてもう分からない。
とにかく、頭が真っ白だった。
訳も分からないまま、ミツルギ検事に連れられて横たわってる人は、顔も体もアザや傷だらけでよく見知ってるはずなのに別人にすら見えた。検事っていう職につきながらも、やっとそのとき理解した。

死ぬってこういうことなんだって。

「相棒、元々体温が低いんだ。低血圧で寝坊助で、よくオレ、朝に電話かけて起こしてやったり、次の教室までおぶって運んでたんだ」

「睫毛が長いんだ。寝てるときに顔を眺めてるといきなり目開けるからオレがびっくりして、それによく笑ってた」

「笑うと、かわいいんだ。すごく。あんまり笑わないけど。でも、オレと一緒にいるときはたくさん笑ってる方だって、そう言ってくれてた」

最初は何も分からなかった。きっとオレがバカだからだ。
でも、だんだん色んなことが頭に浮かんで、オレの隣でたくさん笑ってくれてたアイツが、もう笑ってくれないんだって。
よく寝てるアイツを起こす役目がオレで、でもどう声をかけても、もう起きてくれなくて。
頬に触れると異常に冷たくて。よくオレが触れてた体温は本当は、とっても温かかったんだなって。
そう思うとやっと涙が出てきて、傷だらけの顔にオレの涙が落ちて流れてく。

「……イトノコギリ刑事から預かってきた」
「彼女が、命を賭けて君に託したものだ」
「覚悟が決まったら、私のとこに来るといい」

泣き崩れるオレの手に小さく字が書かれたメモ用紙を握らせて、出ていくミツルギ検事。
たくさん血が付いてる。字も少し歪んでる。

でもメモの文字一つ一つを見れば見るほど、オレがよく見ていた文字の形だ。言葉も。表情もキレイに映りだされてく。
読み返すたびにもうなんか、体の奥の奥がぐちゃぐちゃにされていく感覚。
本当はダメだろ、こんなの。
だって、大事な証拠品だ。オレなんかが持ってていい資格なんてない。

それと隣に置かれた一つの封筒。

…なんとなく、なんとなくだ。
この封筒にも何が書かれているか分かる。
これはオレが証明しろってことなんだ。
相棒だって、きっと隣に立っててくれたらそう言ってたはず。
早く立ち上がって、前を向かないと行けないのに。そんなのわかってるのに。
もう少しだけ、もう少しだけって、止めようとしても涙も止まらないし、顔を上げようとしても体が言うことを聞いてくれない。
ごめんな。オレまだまだこんな甘ったれで。

途中で起きたっていいんだぞ。とびっきりびっくりして、笑わせてやるのに。
起きてくれるならなんだっていいのに。なんだってするのに。声が震えてるからかな、めそめそ泣いてるからいけないのかな。
前みたいに普通に笑って相棒って呼んだら、お前は眠たそうにいつものように起きてくれたのかな。



♢♢♢


遺留品及び、司法解剖報告書



遺留品
現場にて発見された遺書

「弓彦くんへ

一柳万才のこと、必ず有罪にしてやってね!
私からの一生に一度のお願い。

私のことは何も心配しないでください。
弓彦くんが思っているよりも、私はずっと頼れる相棒だからね。

時間がないのでこのへんで
じゃあ、またね。弓彦くん。

一流の相棒より」


司法解剖報告書

『刃物で腹部を刺したことによる自殺。
握りしめていたメモ用紙を遺書として処理。

一柳万才の証言により、以前より重度のうつ病の相談を受けていたとのこと。
事件発生当時、警察署内の保管庫から証拠品を持ち出す窃盗の罪状に掛かっており、警官からの職務質問に混乱状態に陥り、追い詰められ所持していた刃物で腹部を数回刺した。
遺体には死亡より数日前から負っていたと見られる複数の傷やアザがあったが、全て自分で痛めつけたものと判断されている。
また上記による複数の外傷、残された遺書には不審な点も見られ、他殺の可能性も考えられたが精神錯乱状態だったため、「生前からの自傷行為による傷跡」、「正常な執筆が出来る状態ではなかったための遺書」と判断された。』




溺れるような恋でした。
特に後悔もない。
だから全部、ぜんぶ、忘れて欲しい。
どうか幸せになってほしい。

溺れるような日々でした。
だから記憶に刻んでいてほしい。
どうか覚えていてほしい。
私が貴方のために頑張ったことを。