娯楽部〜駆け引き編〜




「む……珍しいな君たち二人とは」

「やあ、弁護士クラスのメガネくん」

「やっほー、静矢くん」
「弓彦くんの亜双義塾が終わるまで待ってるからその間に牙琉くんと将棋してたんだ」

「あそーぎじゅく……?」

「検事クラスの特別講師のコウチ?だか、カウチ?えーっとトウチ検事さん?がボランティアで定期的に開催してる講義だよ」
「その昔、その検事さんの先代に唯一、刀を向けた弁護士さんだったんだって。そんな弁護士に負けない検事を作るとかで開かれたのが亜双義塾」

「随分と優しい講師なのだな」

「そうかい?優しいけれど、ぼくはあまり興味をそそられなかったから退室して来たところだよ」

「なるほどな、ならばちょうどいい。その講義が終わるまでで構わん。手伝ってほしいことがある」

「え゙ーーー……私、講義が終わるのに合わせて帰りたいよ。今日はファミレスで弓彦くんにノートを移させてもらわなきゃいけないから」

「その講義が終わるまで2時限分はあるはずだが?そもそも明日提出のノートを取っていないお前が悪い」

「そんなの取るよりも授業なんてちゃんと聞いてれば、テストの点数なんて取れるじゃん」

「…………」

「まあまあ、メガネくんも相棒ちゃんもクールダウン、クールダウン」
「ぼくは暇が潰せればなんだっていいよ。チェスも将棋も飽きてきたしね」

「……では少し話を聞いてもらおうか」
「先日、剣道部の稽古場で盗難が起きた。これで2度目らしい。犯人には逃げられてしまったが目撃者がいたそうだ」

「目撃者がいたのに、犯人は捕まってないんだね。学校にはいない人ってこと?」

「ウチはセキュリティ厳しいからね。学園祭以外、基本関係者は事務通さないと入れないから外部はないんじゃないかな」

「明らかに生徒ではなかった、というのが目撃者の証言だ。しかも稽古場の倉庫まで追いかけ後、密室から消えた、とそう言っていた」

「……消えた?」

「ああ、その時間帯、稽古場の倉庫は部活中だった為解錠していた」
「女子更衣室から出てきた不審者に気づいた空手部の部長と副部長が追いかけ回したらしい。腕っぷしにも自信があったからと、稽古場の倉庫まで追い詰め、捕まえようとしたら…」

「その稽古場で犯人は消えてしまった、そういうことだね」

「そういうことだ。春風らしく理解が速くて助かる」
「稽古場の倉庫は一切荒らされていない。そこから消えたものもない。巷では心霊現象などという馬鹿げた話も出ている」

「うーん、心霊現象ね…どうして消えちゃったんだろう。その追いかけたとき、部長も副部長の人もちゃんと倉庫は調べたの?」

「入り口では部長が待機し、倉庫内を副部長が隅々を探しても人影一人なかった。倉庫はかなり高い位置に小窓が一つ。人なんて通れやしない。それ以外は完全な密室だ」
「空手部副部長はお前たちと同じクラスの太田という男だ。優秀なヤツらしいじゃないか。事件発生直後には、部活中の武道部連中を集めて点呼を取り、先生が来るまで待機していたらしい」

「……そんな人いたっけ?」

「たしか…イチリュウくんの後ろの席の子じゃなかったかな。楽しくイチリュウくんと話す君によく熱い視線を送ってるよ」

「………………うん。覚えてない」

「うん、知ってたよ」

「今年は弓道部が稽古場の管理を基本的に任されている。やれ盗難や心霊現象なんて見逃していたら弓道部にも馬鹿げた話のとばっちりを食らう」
「それでだ、今の時間は全ての部活が緊急職員会議のため中止になっているが、全国大会前の兼ね合いも合って空手部は部活中だ。空手部に話を聞き、現場を調べれば、あわよくば犯人確保に繋げられる」
「それを君たちにも協力願いたい」

「さっきも言ったとおり、ぼくは暇だから構わないよ。相棒ちゃんは?」

「空手部とか絶対怖いもん。ここで弓彦くんを待つからいいよ」

「だそうだよ?」

「…………はあ、ちょっと来い」


♢♢♢


「ええ……どうしたの静矢くん」

「牙琉は確かに優秀かもしれん。だが、推理や洞察力はハッキリ言ってそこそこだ。……ぼくが何を言いたいか分かるか」

「……頼りにならない?」

「よく分かってるじゃないか。そして、知っての通りぼくも百点以外逃したことがなくとも、推理や観察眼はそこそこだ」

「堂々としてるなあ。しょうがないじゃん、まだ学生なんだから。上には上がいるよ」

「ぼくは今日、この依頼は君にするつもりだった。いつも一柳の隣でいる感覚で構わん。牙琉はおまけだ。君に来てもらわないと困る」

「えええ……めんど…んん、消えたって、そんなの推理も何もないじゃんか…」

「由緒正しき霊術のお家育ちだろう。うってつけじゃないか」

「ええええ…除霊専門じゃないし、ウチ…。私が行くなら、ファブリーズでもかけといた方がずっといいよ」

「…………分かった。ならこれでどうだ」


♢♢♢♢



「話し合いは終わったかい?」

「ああ、待たせてすまない牙琉」

「相棒ちゃんは…ついてきてくれるんだね。おや、何持ってるんだい?」

「二人分の遊園地のチケット」

「へえ…いいね!しかもそこ、最近新しいアトラクションがオープンしてから、カップルに人気の遊園地だね。イチリュウくんと楽しんでおいで」

「えへへ、うん!」

「……メガネくん。アレ、今人気だからなかなか取れないものだよね。どうしたんだい?まさか相棒ちゃんに上げるためだけに用意したの?」

「そんなわけ無いだろう。太田というやつから自分で渡すのは恥ずかしいから、彼女にプレゼントしてくれと言われて渡しただけだ」

「多分、使い方間違ってるかもね…」



この可哀想な太田くんは何処かの話に1度出てきてるのでぜひ!!