主従-Ave Maria-

※タクトオーパスパロ



「マエストロ」

「お、相棒ー!気づかなくてゴメンな」

「ふふ、夢中になって演奏されていたので…終わりまで聴かせていただきました」
「あと、私は相棒ではなく」

「へへ、オレの演奏はなんせ一級品だからな。夢中になるのも無理はないよな」
「隣座れよ。なんならまた連弾でもするか?」

「…いえ、結構です。私は貴方が音楽を楽しんでいるお姿が好きなので」

「え」
「……あ!オ、オレも、お、お前のオレの音を聞いてるときの顔とか好きだぞ!」

「あはは、お顔が真っ赤ですマエストロ」
「…なら私は貴方の音楽も貴方の存在も好きです」

「おう!オレもお前のことずっとゔぇえぇぇえええええ?!」

「マ、マエストロ?!」



♢♢♢♢


「落ち着きましたか?」

「ああういうこと突然言うのやめろよ……」
「もうちょっと雰囲気とか、その、色々あると思うんだよ」

「そうですか?」

「そうだよ!だいたい、お前はオレなんかよりも親父のことが好きなんだと……」

「いきなり自信を失くされるんですね。マエストロらしくないかと」
「……うーん、何故でしょう。貴方が夢中になって鍵盤を叩く姿に引かれていました」

「…そ、そっか」

「…………」
「マエストロ弓彦。ワガママだとは思いますが、先程言ったことは忘れてください」

「え、さ、先ほどってどこの…」

「貴方を好きと言ったことです。アレは人間ではないムジカートにとってあってはならない、突発的に出た言葉ですから」

「え……で、でも」

「ああ、いえ。悪い意味ではありません」
「私は無論、貴方が奏でる音楽も情熱も優しさも、そして貴方自身もこれからも余すとこなく愛しています。時間がないと思い、つい言葉に情動的に出てしまいました」

「あ、お、おお、おう…………」
「おれ、おお、オレもあ、あ、あいし…好きだぞお前のそういうとこ!」

「……ええ、知っています」
「ですが私はムジカート。本来ならこの世界には必要のない存在。いつか責務を全うし、死を迎えます」

「………そ、そんな、こと」

「いいえ、死にます。私は世界や人ではなく、貴方を、貴方の音楽を守るためにこの身を捧げます」
「いつかマエストロ 一柳弓彦ではなく、一流の音楽家 一柳弓彦として、貴方の情熱を、音楽を世界に知らしめるために私は戦います」
「ですから、先程言ったことは忘れて欲しいのです。貴方は音楽家として、貴方の最高のステージを誰しもが目にし、耳にし、立ち上がり拍手をし、称え、祝福する。そんな世界を私は」

「そんなの都合よく飲み込めるわけないだろ!!」
「オ、オレはァ!お前が、ぅ、ひぐ、おまえが居なかったら、親父を通してでしか、誰も、誰もオレの演奏なんて、聞いてなんて、くれなくてっ」

「マエストロ」

「…………!」

「私は貴方の全てを愛しています」
「だから、どうか今だけ貴方の全てを、この罪人とともに在っては貰えませんか」







天使の祝詞も恵みもいらなかったのさ。
オレが欲しかったものはずっと隣に在ったものだから。