まじウケるんですけど


夜、江戸のとある場所にあるスナックお登勢には毎日多くの客が足を運ぶ。
この店の看板娘であるましろは今日もゲラゲラと楽しそうに酔っ払いの相手をしている。その様子をお登勢は煙草を吹かしながらあたたかい目で見ていた。

「あーっはっは!まじ!?まじでその長髪の男ナンパしちゃったの!?」
「まじだよ〜長身ではあったけどあまりにも綺麗な黒髪だったもんでモデル並みの美女と勘違いしゃってさ。振り返ったら男も男」
「で、イケメンだった?」
「ああ、ましろちゃんが見たら好きになってたかもねぇ」
「ホント!?ちょっと紹介してよ!ねえ!この美少女にさ!」
「ましろちゃんが美少女って!わははは!こりゃいい!」
「何笑ってんだこら!ボッタくるぞ!」

ましろがカウンター越しに怒りの形相で客の胸ぐらを掴んだところでやれやれと言った風にお登勢が止めに入った。
ましろは裏表が無いのはいいのだが、ありのまますぎて接客に向いていない時がある。まさに今のがいい例だ。しかし客に嫌われることは決して無い。胸ぐらを掴まれた客でさえ、まあまあとお登勢をなだめる。

「ったく、あんたのために止めに入ってやったんだろ」
「いいんだよーお登勢さん。俺らは飾らないましろちゃんに会いたくて来てるんだから」

そう言われたましろは先程とは打って変わり満面の笑みを浮かべている。

「ありがと、これからもスナックお登勢をご贔屓に〜!たまにポロリもあるよ」
「お!ホントかー!」
「キャサリンの」
「お会計で」

そんなふざけた会話をしながら今日も夜が更けていく。
閉店時間を少しオーバーしようやく客足がはけ、ましろはお登勢に許可を取り店先の暖簾をおろした。

が、その時「おいましろ〜!」と自分を呼ぶ声がした。
嫌な予感がしてそちらを向くと、千鳥足の男2人組が一升瓶を持ち楽しそうに近付いてくる。

「長谷川さんと、銀さん…」
「もう店閉めようとしてんのか!開けろ開けろ〜!」
「いや、もうおしまいなんで。ありえないんで。帰って寝ろ」

冷たくそう言い放つと銀時はムッとした顔をしましろに向かいビシッと指をさした。

「お前な、柔軟性を持ちなさいよ。そんな頭でっかちなことばっか言ってっとモテねーぞ!客の言うことだけ聞いてりゃいイテテテテテテテテ!」

銀時の人差し指がメシメシと音を立てて曲がってはいけない方向に曲がる。犯人は額に青筋を浮かべたましろ。躊躇うことなく彼の指を曲げていく。

「やめなましろ。一杯くらい飲ませてやろうじゃないか」
「…お登勢さんはなんだかんだ甘いんですよ」

不服な様子のましろの肩をポンっとお登勢が叩き、銀時と長谷川を席まで案内させた。
ドン!ドン!!っと2人の目の前に乱暴にグラスを置いたましろはブスっとした表情を浮かべている。

「…オイオイ、ちったー可愛い顔でもしたらどうだ。そんな顔されたらせっかくの酒が不味くなんだろ」
「うるっさいな、疲れてるから早く閉めたいのよ!イケメンで面白い客ならともかく、銀さんと長谷川さんじゃあね」

ハンッと鼻で笑うと長谷川がハハッと乾いた声で笑った。

「ましろちゃん厳しいね。俺1人の時はもう少し優しいのに」
「長谷川さんなにをおっしゃいますか。私はいつでも優しいですよオラどうせならもっと飲め金を落としていけ!」

笑いながらぐいぐいとグラスに追加の酒を注ぐましろを銀時が上から下まで眺める。

「お前、黙ってりゃいい線いってんだけどな」
「はあ?銀さんに値踏みされるほど落ちぶれちゃいないんですが」
「そうだよ銀時。こう見えてましろはしょっちゅう客に口説かれてんだ」
「うーんお登勢さんこう見えてなんて言っちゃダメだぞ!」

ましろは銀時達の相手をお登勢に任せ、シンクに残る洗い物を済ませてしまうことにした。
最近洗剤のせいで手が荒れてきたな、なんて思いながらお登勢達の会話にも耳を傾ける。


「物好きな奴もいるもんだな。こんなじゃじゃ馬娘をよー。あ、酔っ払ってるから正常な判断が出来なくなってんのか」
「…前から思ってたんだけどあんたやけにましろにつっかかるね」
「あ?ンなことねーだろ。何言ってんだババア」
「そんなことあるって。なんだい気付いてなかったのかい」

また自分の話してる。とましろはため息をつく。酔っ払いの客以外からモテないなんてこと自覚しているのだから、放って置いてくれ。
洗い物を終えたましろは食器を拭き始めた。すると長谷川が愉快そうに話しかけてくる。

「でもましろちゃんもいい時分でしょ?どうなの、そっちの方は」
「はいセクハラ〜完全なセクハラよ長谷川さん!」
「いいからいいから、で、どうなの?」
「なんもよくねーよ唯一の長所であるグラサン割るぞ」

ましろが長谷川のサングラスに手をかけた時、彼女の腕を銀時が掴んだ。

「まあやめてやれって唯一の長所なんだから」
「そこ否定してくれよ銀さん…」
「まあ仕方ない唯一の長所だしな、勘弁してやろう」
「ましろちゃん…」

長谷川が机に伏してシクシクと泣き出す。そんな様子を見ながらお登勢がハァっとため息をついた。

「あんたら何だかんだ似てるんだよねぇ」
「えー似てないですよ。やめてください」
「ホントだよやめろ。鳥肌立つだろ気持ち悪りぃ」
「くっ…そこまで言われる筋合いはない…」

ましろは食器を拭くのに戻り、銀時も酒を口にする。
その時、お登勢がとんでもない発言をした。

「わかった。銀時、あんたましろのこと好きなんだろ」

ずるっとコケてしまったましろは慌てて立ち上がる。

「お登勢さん!そんなわけないでしょ!小学生の男子じゃあるまいし好きだからって意地悪言ってるわけじゃないですよ!ホラ銀さんも何か言っ、て…え…?」


嫌そうにしているに違いないと確信し銀時を見ると、予想外の光景がましろの目に映った。


眉を顰める銀時、それは予想通り。
しかしその顔はゆでダコなのかってくらいに赤くなっていた。


「いやいや…え、は…?」


銀時以外の3人は顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。


(冗談でしょ?)

prev/next