いつでも余裕なんて
「おいこらましろ」
「んんー…なに…」
「なにじゃねえよ。いい加減起きやがれ」
「……ぎゃ、ぎゃあああ!」
ましろは思い切り声をあげた。
まだ眠い中目を開け隣を見ると同じ布団に銀時がいたからだ。
いつも以上に髪の毛が散乱している銀時を見て、ましろはダラダラと冷や汗をかく。
「え、ちょ、ま、待ってください!これは!もしかして!」
「事後」
「うわあわあわあわあわあー!?!?」
やってしまったやってしまった!とうとうお酒で失敗してしまった!
昨日土方に注がれた酒を飲んだところまでは覚えている。
いや、嘘だ。正確には土方に愛してるなんて言ったことまではっきり覚えている。
そこからどうしてこうなった?
ましろは働かない頭をフル稼働させて考える。
あの酒を飲んだ後どうしようもなく土方さんのことが愛おしくなってベタベタした。そしたら総悟がほっぺたにキスしてきて…
え?キス?総悟が私に?
で、そのあと銀さんと?
「あわわわわキャパオーバー」
思い出しはしたが、さらに頭を混乱させる結果になってしまった。
銀時はそんなましろを気の毒そうに見ていたが、ムクリと布団から起き上がりあぐらをかいた。
「落ち着けって。嘘だ嘘。事後だったらいいのになーっておもっただけだ」
「うぇ?」
ましろは銀時を見た。相変わらず死んだ魚の目をしているので本当かどうかよくわかりはしない。
「なんか失礼なこと考えてんな」
「めっそうもない」
「…神楽がそこの押入れで寝てんだよ。できるわけねーだろ」
銀時がアゴで押入れをさした。
確かにそこからはグゴゴと寝息がきこえてくる。
とりあえず嘘は言っていないようだ。
ましろはホッと胸をなでおろした。
「シャレにならない冗談やめてよ!てかそもそも一緒に寝てるのもおかしいでしょ!」
「は?お前がそれを言うか?俺はお前をかついでババアんとこに連れてったんだ。なのにお前ときたら俺をはなしゃしねぇ。ババアに言われて仕方なくここに帰ってきたの。1人で寝せようとしても相変わらずはなさねーし」
「……まじっすか?」
「ババアに聞け」
ましろはゴンっ!と音がなるほど勢いよく土下座した。もうプライドもなにもない。
今回は明らかに自分が悪いのだから。
「ごめん!まじごめん!銀さんあんたは命の恩人だ!ポイっとその辺に捨てられてもおかしくなかったのに!」
「何回か捨てようとしたけどはなさなかったんだって」
鼻をほじりながらそう言った銀時だが、文句は言えなかった。
ましろはものすごく悔しそうだ。
そして、少し落ち着きを取り戻したところで再び昨夜のことを思い出した。
「……ねえ銀さん」
「なに」
「昨日のことなんだけど、私…」
「あーー。まあ、酒に強力な惚れ薬が入ってたみたいだな」
なんとなくましろはそのことに気付いていた。あの突然湧いたどうしようもない土方への愛情は尋常じゃなかった。惚れ薬のせいと言われれば納得もいく。
しかし、だ。問題はそれだけではない。
「で、でもさ。何故かはわからないけどその…総悟が、さ?」
「薬の弱点をついてお前を眠らせるためだったとは言ってたけど、それに関しては俺もよくわかりません。質問は以上で締め切ります」
そう言い、銀時はどこかへ行ってしまった。
薬の弱点。まあ、確かにあのキスで眠ってしまったわけだしそれは嘘ではないだろう。
でも、ましろは覚えていた。
総悟がましろにキスする直前、彼は悔しそうな顔をしていたのだ。
まるで、ましろに抱きつかれている土方に嫉妬するかのように……
「…いや、総悟に限ってそんなことないか」
ましろは自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
「…そういやお風呂はいってないのか私。うげ、ここで入らせてもらお」
気分を変えようとましろは風呂場へ向かう。
万事屋には何度も来たことがある。どこになにがあるのかももう覚えた。
ましろは廊下を歩き風呂場につながっている脱衣所の扉をガラッと開けた。
「あ?」
「わ!!!!」
なんと、そこには上半身裸の銀時。
ましろは慌てて後ろをむき、「ごめんなさーい!」と叫んだ。
おそらく銀時もシャワーを浴びようとしていたのだろう。
下まで脱いでなくてよかった…ましろはドキドキとうるさい心臓をおさえながら心からそう思った。
「なにましろちゃん、エッチねえ」
「お、お風呂入らせてもらおうと思って!ごめん!銀さんもそうだよね!入りたかったよね!どうぞお先に!そのあと入らせてください!」
「一緒に入る?」
「誰が入るか!!」
ピシャリと扉を閉め、ましろは居間まで走った。
とりあえず、落ち着こう。お茶でも飲もう。
相変わらず寝息を立てている神楽の湯のみも一応用意しつつ、ましろは銀時があがるのを待った。
早朝だから新八が来る時間でもない。
定春もまだ眠そうだ。
そういえば私軽く二日酔いかもしれない。ましろはそう思いながら少しウトウトし始めた。
「……、ましろー」
「は!!」
名前を呼ばれている。銀時が風呂から上がったようだ。時計を見ると30分過ぎている。
ましろは目をこすりながら風呂場へ向かった。
「…銀さん、入って大丈夫?」
「おー来いよ」
「…裸だったりしないよね」
「期待してんの?」
「するかバカ!」
なかなか扉を開けないましろにしびれを切らしたのか、銀時が脱衣所からでてきた。
もちろん服はきちんと着ている。いつもの着物ではなく寝間着ではあったが。
「え、銀さん二度寝するの?」
「昨日寝れなかったんでね」
「なんで?私寝相でも悪かった?」
「お前なぁ…好きな女が隣で寝てて冷静でいられるかよ。自分抑えるのに必死で寝てる暇なんてありませんでした」
「お、おう…」
あまりにもハッキリとした物言いにましろは何も言えなかった。
固まってしまったましろにタオルを差し出しながら、銀時は寝室へ向かおうとする。
「あ、あの!」
「なんだよ」
「その、なんていうか、ごめんなさい…」
とっさに銀時の寝間着の裾をつかんだましろがそう言うと、彼はましろの腕を取り再び脱衣所に入った。そして、ガラガラと扉を閉めた。
2人きりになった密室で、銀時はましろを壁際に追いやる。
「え、ぎ、銀さん」
「それなんに対して謝ってんの?」
「え?」
「ニコチン野郎に愛してるって言ったこと?ドS野郎にキスさせたこと?人の気も知らねーで隣でグースカ寝てたこと?」
今まで見たことないような、辛そうな顔でそう言った銀時。
決してましろを責めるような声色ではないが、穏やかでないことは確かだ。
「なあましろ、俺どうしたらいいんだよ」
「な、なに、きゃあ!」
「なあ、ましろ」
ましろの首元に銀時が顔をうずめる。
彼の吐息が耳をかすめ、ましろはゾクリと身体を震わす。
カチカチと、時計の針がやけにうるさくきこえた。
(おしえてくれよ)
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