もうじき決心しますから


銀時がましろを好きだと自覚してから一週間、彼らの仲は特に変わることもなく普段通りの日々を過ごしていた。
銀時がスナックお登勢に行けばましろがいて、今までのように言い合いになる。お登勢や長谷川はそんな2人を呆れた顔で見ていたが2人がそれでいいなら何も言うまいという姿勢だ。



「良いわけねーだろ…」

ズーンと万事屋のソファで項垂れる銀時。その正面のソファでは神楽と新八が顔を見合わせて困っている。
外ではいつもと変わらない銀時だが、あれからというもの家の中ではずっとこの調子なのだ。

「ぎ、銀さん。僕が言うのもなんなんですが、そんなに悩むんならもう一度ハッキリと告白したらどうですか?」
「そうよ銀ちゃん。童貞の新八なんかにこんなこと言われてどうするネ」
「童貞は余計だよね、僕まで傷付ける必要はないよね」
「男ならケツの穴引き締めてドーンと行けヨ!」
「結野アナ…?結野アナの話は今どうでもいいだろ…」
「…これは重症ですね」

神楽はそんな銀時にしびれを切らしたのか、ズンズン彼の元へ行きスパーン!と頭をはたいた。

「ウジウジウジウジ!情けないアル!ましろは普段となにも変わらないのになんで銀ちゃんだけそんななるアルか!」
「いや神楽ちゃん、ましろさんがなにも変わらないから銀さんはここまで落ち込んでるんじゃ…」
「ましろ!?どこだましろ!相変わらずしけたツラしてやがんのか!?俺が拝んでやるからでてきやがれ!」

ましろの名を聞いた途端普段のテンション、いや、普段より高めのテンションになり目を輝かせ立ち上がった銀時を神楽と新八は乾いた目で見る。

銀時はようやくその視線に気付いたようで気まずそうに座り直した。
心なしか定春まで冷たい目をしている。

「…情けねーのはわかってんだよ。俺だってあいつのことそんな風におもってたなんて気付いたばかりで混乱してんだ」

また落ち込んでしまった銀時。
神楽たちはもう放っておくことにした。

「ところで最近真選組の人たちをよくこの辺りで見かけますね」
「あのクソドS野郎がましろのこと気に入ってるからスナックお登勢に入り浸ってるみたいネ」
「ああ沖田さん…あれは気に入ってるというかなんというか…中々他では見られない顔をましろさんには見せてるよね…」
「キモいアル。本当にキモいアル」
「あ、そう言えばましろさんが今日は下でご飯食べなって誘ってくれたんだった。行こう神楽ちゃん!銀さんも、気が向いたら来てくださいね」


新八と神楽は連れ立って出て行った。
銀時も行くつもりではある。しかし今はましろのことを考え過ぎていて会う心の準備も出来ていない。

もう少し経ってから行こう

銀時はボーッと天井を眺めた。


* * *


「ゲッ」
「……チッ」

新八たちがスナックお登勢に行くと、まだ開店前のはずなのに先ほど噂していた沖田、そして土方と近藤がカウンターに座っていた。
思わず神楽が声を上げるとこちらを見た沖田も嫌そうに舌打ちをする。

「あ、来た来た。ほれ、神楽と新八もここに座りなさい」

ましろが手招きをして無理やりカウンター席に座らせた。
お登勢たちは出かけているらしく、ましろが忙しなく準備をしている。

「よ!新八くんにチャイナ!珍しいな、2人か?」
「銀さんなら後で来ると思いますよ。ところでどうして開店前に?」
「あーさっき店の前で会ったもんだからね、一杯どうですかって私が誘ったのよ!」
「いいアルか公務員。職務中に飲酒なんて」
「俺はやめとくって言ったんだがコイツが聞きやしねぇ」
「ましろさんに誘われたら断るわけにはいかないってもんでさァ」
「相変わらず可愛いなぁ総悟は!コイツめコイツめ!」

ましろがわしゃわしゃと沖田の頭を撫でる。他の人がしようものなら殺されてしまいそうだが、驚くことに沖田は嬉しそうに目を閉じましろの手を受け入れている。
神楽はその光景を怪訝な顔で見ているが、他の人たちにとっては慣れっこなようで特に気にしている様子はない。

そう、沖田は何故かましろに激しく懐いており、もはや崇拝の域に達するほどにましろを慕っている。

土方が以前言っていた。沖田は姉であるミツバの前では確かにこんな感じだったと。しかしましろがミツバに似ているかと言えば決してそうではなく、謎は深まるばかりだ。

「ところでなんで銀さん遅れて来るの?今日仕事だった?」

沖田を撫でながらましろが新八に尋ねる。新八は先ほどの銀時を思い出し苦笑いを浮かべた。なんて言えばいいか分からない。
しかし神楽が空気を読まずに答えた。

「ましろのこと好きなのにうまく伝えられないし当のましろは普段通りだからって家で凹んでるアル」

言い終わった瞬間、真選組3人がピシャリと固まった。
沖田に関しては持っていたグラスを割ってしまったほどだ。

「おうチャイナァ詳しく聞かせろよ」
「詳しくもなにも言ったまんまネ。それより刀おろせ落ち着けヨ」

ましろに至っては「え、銀さんそんなこと考えてたの!?」とまるでわかっていなかったようだ。
銀時が普段通り接してくるから私もそのままで、ましろはそう考えていた自分を少し反省した。


「ちわー。言われた通りメシ食いに来たぜ。腹減った腹減ったー…ん?」


最悪のタイミングで現れた銀時を、新八は心底哀れんだ目で見た。



(その普段通りの態度も演技だと思うと泣けてきますよ)


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