だって人間だもの


近藤、土方、沖田の3人は仕事を終わらせ、約束通りまたスナックお登勢を訪れていた。
制服では他の客を威圧してしまうからと着物に着替えたためか、心なしかいつもよりリラックスした雰囲気だ。

「あーーーやる気でねェや」

しかし1人だけそうではないらしい。発言の主は沖田総悟。ましろを慕っている男だ。
出された酒や料理も口にせず、店に来てからずっとこの調子である。

「いつまでそうやってるつもりだ総悟!そもそもお前はましろの事が好きなのか?ラブなのか?だったら俺がお妙さんにやってるみたいに真正面から気持ち伝えりゃいいじゃないか!」
「違うんでさァ近藤さん。俺ァ確かにましろさんの事は大好きだがそういう対象じゃねェ。ましろさんは至高にして唯一の存在。心の安らぎ。人類の救い」
「そんな大層なもんじゃねーだろ」
「うるせー土方。マヨネーズ馬鹿なんかにわかってたまるか」
「俺お前の上司なんですけどォオ!?」

この会話はましろを目の前にして行われている。
カウンター席に座る3人を見ながら、お登勢はましろの肩に手を置き、フゥ、と煙草をふかした。

「あんたも大変だね。喧嘩相手に急に好かれたりお役人さんに崇拝されたり」
「総悟がこうなのは前からなんで慣れてたんですけどね。銀さんの事がバレてから総悟からの愛が余計重くなった気がして…」
「そりゃなるでしょうよ。ましろさんを本気で好きだ、一生大切にするってくらいの気概があんならともかく、あんなフワッとした気持ちでいられちゃ俺だって納得いかねェ」


沖田は不機嫌を前面に出しているが、言っていることは割とまともである。
確かに銀時の告白は好きは好きだが今すぐどうこうしたいという訳ではない、という曖昧なものだった。
しかしそれはましろも同じ。告白されて嫌な気はしなかったがだからといって付き合おう、はいわかりました、と返事ができるようなものでもない。
沖田は言わないがきっとそんな私にも苛立っているのだろうな、とましろは感じていた。


「子供じゃあるまいし、惚れた腫れたは本人同士に任せときゃいいんだ。外野が首突っ込む話じゃねーよ」
「そんな呑気なこと言ってていいんですかィ土方さん。旦那にリードされてるっていうのに」
「グフォオ」

酒を吹き出した土方を見たましろは慌てて裏にタオルを取りに行った。
近藤は首を傾げているが、お登勢は察したようで頭を抱えている。

「なんだい、あんたもましろのこと?」
「そうなんでさァ。この人なんてことない顔してむっつり野郎なんだ。本当はましろさんに惹かれてやがムゴムゴ」
「それ以上言ったらぶち殺すぞ!」

顔に青筋を浮かべた土方が沖田の口を塞ぐ。しかし沖田はシレッとした顔で土方を見る。

「ありゃ、図星ですかィ?俺ァテキトーに言ったのになーそうだったんだー」
「総悟テメェ…!!」
「拭くものもってきました!…総悟と土方さん今日は随分仲良しね?」

ましろを見た土方は沖田の首に当てていた刀をすぐさま鞘におさめ、がっしりと肩を組んで誤魔化した。
沖田が変なことを言い出さないよう土方は必死に引きつった笑顔を浮かべている。

「何言ってんだ、俺たちはいつも仲良しだろ。な、総悟」
「は?ニコチン臭いんですけど?」
「…おい、調子乗ってっと、」
「ましろさん、実は土方さんも…」
「総悟くーん!!ほらほら美味しい料理だぞー!サービスでもっと美味しくなるおまじないかけちゃう!」
「は?マヨ臭いんですけど?」
「テンメェエエ!…もういい!俺は帰る!」

我慢の限界に達したのか土方は乱暴に席を立ち店から出て行った。
お登勢はやれやれと呆れ返っているが、ましろは何が起こったのかわかっておらずポカンとしている。

「まったく、男ってのはいつまでもガキだね」
「え、お登勢さん何があったの。土方さん随分怒ってたけど」
「なんでもないよ。…とりあえず今日は店じまいだ。あんた達も帰っとくれよ」

お登勢は沖田と近藤にも帰るよう促す。
近藤は騒がしくした詫びとして多めに代金を置いて出て行った。
ましろはハテナを浮かべながらも閉店作業に取り掛かり、それが終わる頃には今日も楽しかったなーと呑気に鼻歌を歌っていた。


* * *


真選組屯所までの帰り道、沖田と近藤の2人は時々月を見上げながら歩いていた。

「いやーそれにしてもトシがなぁ!」

先程土方が出て行った理由を沖田から聞いた近藤は楽しそうにそう言う。
他人の色恋に鈍感な所がある近藤は全く気付いていなかったようだ。

「ま、恐らく土方さん自身も気付いたのはさっきなんでしょうがねィ」
「ん?どういうことだ?」
「土方さん、昼あの店出てから様子がおかしかったでしょ。多分旦那がましろさんの事好きって聞いたからだ」

おかしかったか?と近藤が言うのを沖田は愉快そうに見ている。

「そん時ちっと焦ったんでしょうね。なんとも思ってなかった女なのに、他人に取られるってなると惜しくなっちまった。…鬼の副長もやはり人の子って事でさァ」
「うーん、それじゃあましろを巡って万事屋とトシが争っちまうってことか?」
「どうですかねェ。それはそれで面白いし、ましろさんに迷惑かけんなっても思うし」


沖田は立ち止まり、来た道を振り返った。


「まあ、俺としちゃましろさんには旦那よりかは土方さんとくっついて貰った方が助かるんですけどね」
「はぁ…総悟、お前それって純粋にトシを応援ってわけじゃなく、ましろと関わる機会が増えそうだからって理由だろ」


沖田は近藤にニヤリと笑ってみせた。



(あ、バレやした?)

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