女子は恋バナ好きが多い


「うーん、野菜の食べ頃ってわからんもんだな」

様々な食材を見比べながらましろが1人そう呟く。
彼女は買い出しのため街に出たはいいが、なにぶん食材を選ぶのが下手でいつも困ってしまう。普段店で使う食材の買い出しはキャサリンやたまなのだが、あいにく今日はプライベート。お登勢と一緒に住んでいるとは言え、フリーの日の料理くらい自分でしなければならない。
はぁ、とため息をついたましろはとりあえず形の良さそうなものを選びカゴに入れた。

「ちょっと、それよりもこっちの方が美味しいんじゃないかしら?」

突然後ろから声をかけられたましろはびくっと肩を震わせた。
しかし聞き覚えのある声だ。彼女は満面の笑みで振り向く。

「その声は〜お妙!!」
「ピンポーン、私でした」

確かにましろが選んだ茄子よりも艶のある茄子を持ったお妙が立っていた。
どうやら彼女も買い物に来ていたようだ。

お妙とましろは年が近いこともあり、まるで姉妹かのようになんでも話す仲だ。

「お妙、偶然ね!今日の夕飯は何にするの?」
「今日は新ちゃんもウチで食べるみたいだから、卵焼きよ」
「…いつも通りじゃん」
「変わらないって、意外と難しいことなのよ」
「(なんの話…)」

そんな会話をしつつ、ましろとお妙は買い物を済ませて途中まで一緒に帰ることにした。
日が暮れるのも早くなって来たな、なんてことをボーッと考えていると、お妙が「そういえば」と話を切り出した。


「ましろ、あなた銀さんに告白されたんですって?」
「…新八め」
「でも付き合わないのね。水臭いじゃない、相談もしないで」
「……だってさー」


ましろはお妙に思いの丈をぶつけた。
今まで誰にも言ってこなかったが、ましろだってそれなりに悩みはしたのだ。

「銀さんの事は嫌いではないよ。でも何て言うかな、友達、だったんだよ。本当に」


お妙は微笑みながら聴いている。


「そもそも人を好きになったことがなくてさ。あ、お妙のことは好きだよ?ラブ」
「そういうのいいから」


お妙は微笑みながら聴いている。


「でも異性に対してのそういう気持ちがわからない。新八とか総悟は弟みたいだなって思って大好きだけど、付き合う対象ではないじゃない?…銀さんも、そんな感じだったんだよね」

何も言わないお妙の様子を、ましろはチラッと横目で伺った。
お妙は空を見上げておりどんな表情をしているかわからない。何か浮かんでるのかな、と思ったましろもつられて空を見る。飛行機も何もなく、目に映ったのはただただ綺麗な夕日だった。

「うぐっ」

思わず見惚れていたましろは道端の小石に足をとられ、そのまま派手に転んでしまった。

「あら大変、着替え貸すからウチに寄って行って!」

派手に転んだ割には受け身が上手かったのか、ましろは怪我1つ負わなかった。
しかし着物が少し汚れてしまったようだ。

ましろはお言葉に甘え、お妙の家に寄る事にした。


* * *


お妙の家に着き着替えを借りる時、どうせならこのまま泊まっていけばと言われたましろは途端に帰るのがめんどくさくなりすぐさまお登勢に外泊の連絡を入れた。

ましろとお妙はさっそく夕飯の支度をすることにし、買ってきた材料で新八を含めた3人分の料理を作る。
ましろは食材を選ぶのは下手でも、料理の腕には少々自信があった。お妙はどんな材料を使ってもダークマターを作り出してしまうためハナからあてにはしていない。
ましろが4品、お妙がダークマターを5つ作り上げ(多くない?という発言は無視された)、それらを食卓へ運ぶ。

途中帰ってきた新八にも手伝わせ、ましろ達は席へとついた。
すると「ごめんくださーい」と玄関から声がする。

新八が対応し帰ってきたかと思うと、彼の後には神楽と九兵衛の姿があった。

「ありゃ、2人ともどうしたの?」
「妙ちゃんに家に来ないかと誘われたものでな」
「ましろと姉御だけでずるいアル」
「ごめんなさいましろ。どうせならと思って2人も呼んだのよ」


だから卵焼き(ダークマター)を5つも作ったのかと合点がいったましろは苦笑いを浮かべる。


「謝ることはないよ、私も急にお泊りさせてもらうことになったんだし。よし!せっかくなら女子会楽しもー!」


5人は食事を済ませ、九兵衛が持ってきてくれた差し入れのフルーツをデザートにすることにした。
お妙のダークマターは全て余り、九兵衛がいそいそと嬉しそうに重箱に詰めている。

「それにしても、4人も女性がいると華やかですね」
「そうだろうそうだろう。今のこの瞬間を楽しみたまえよ」
「はは…ましろさんは返しが独特ですね」
「何が独特だ。華やかなのに違いはないでしょうが」

フフン、とドヤ顔なましろをみてお妙が愉快そうに笑う。

「まったく、ましろは相変わらずね」
「でもそんなとこがましろのいいとこネ」
「間違いないな。僕はそういうあっけらかんとした性格のましろが好きだ。周りの男がなぜ放っておくかわからないよ。例えば銀時とか」

九兵衛の発言に、一瞬にして空気が凍った。
ましろに関しては気まずさのあまり変な表情をしている。どうしようもないとき顔が変になるのはましろの癖のようだ。

「……九兵衛さん、よくそんなピンポイントで地雷を踏めましたね…」

新八にそう言われ、九兵衛は慌てて周りを見渡す。

「す、すまない!なにか問題があっただろうか!銀時はましろと親しいようだし、例えとして言ったまでなんだが…」

ましろに頭を下げる九兵衛の肩を、神楽が慰めるようにポンポンと叩いた。


「生きてりゃそういうこともあるヨ。ましろが銀ちゃんに告られたなんて知るよしもないもんネ」
「ええ!?ましろが銀時に!?そ、それでなんと答えたんだ!?」
「……嬉しいけど、付き合うのは少し違うかなって」
「それはまたイエスともノーともとれない酷なことを……」

九兵衛が顔を引きつらせている。
酷なことと言われたましろは焦っているのか違うの違うの!と顔の前で手を振った。

「九兵衛が言うように私と銀さんって親しかったじゃない?でもそれって喧嘩友達ってだけだったんだよ。告白はそりゃ女として嬉しかったけどさ、なんというかな…違うんだよ…彼氏じゃないんだよ…」

次第に悲しい表情になるましろを見た九兵衛は慌てて前言撤回だ!と叫んだ。

「すまなかったましろ!そうだよな、いくら親しいとは言え、友人に急に告白されたら困るよな。僕もましろの事は大好きだが、告白されるとなるとまた別だと気付いたよ。僕は妙ちゃん一筋だし……」
「いや、そこわざわざ私で例える必要なくない……?」

さっきの本気で悲しそうな顔は何処へやら、メソメソとふざけた泣き真似をしてみせるましろに一同はホッと胸を撫で下ろす。

「……ま、ともかく。ましろの気持ちがまとまらない以上現状維持って感じなのかしら?」
「銀さんも焦らず時間をかけて好きにさせるって言ってましたよ」
「最近は普段と変わらない感じアル。ようやく自分の中の混乱が消えたんだろうネ」
「ねえ君達、それは私がいる前でする話なのだろうか?私が恥ずかしくなるとかそういった気遣いはしないのかい?」
「そうか…いずれ銀時はましろと…」
「ねえやめて九兵衛。そんなしみじみ"いずれ"なんて言わないで。私がOK出すとは限らないでしょ」


ましろを完全放置でお喋りをする4人にましろ自身がツッコミを入れている時、「その通りよォォォォォオ!」と突然声が響いた。
全員が声がする方を見上げると、天井から猿飛あやめ、通称さっちゃんがぶら下がっている。

「いくらましろでも銀さんの隣は譲らないわよ!!」


ああ、これはめんどくさいことになりそうだ。
新八はずれ落ちたメガネをクイッと指で持ち上げた。


(とりあえず盗聴と不法侵入はやめてください。)

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