たまにはこんな日も


チュンチュンと鳥のさえずりが響き渡る朝。
あたたかな日差しと風が心地よい。

そんな爽やかな日の早朝に、ましろはボサボサの頭で1人歩いていた。

「ふぁ〜朝早く出てきたはいいけど、こんな寝起きの姿知り合いに見られたらたまったもんじゃないな」

昨夜志村家にお泊まりだったましろだが、お妙と新八、九兵衛に挨拶をして早々に家を出ていた。
スナックお登勢の開店準備をしなければならない。まあこんなに早く帰る必要はないのだが、昨日快く外泊を許してくれたお登勢の為にもいつも以上に掃除や洗濯を頑張ろうと思ったのだ。

それにしても、起きた時神楽はまだ眠っていたが、さっちゃんの姿がなかった。
恐らく皆が寝静まってから帰ったのだろう。

「(これからもお店に来てくれるかな…)」

ワガママな願いだとは思うが、ましろは今後も今まで通りさっちゃんと付き合っていきたかった。昨日さっちゃんは、銀時とましろのことは自分を焦らすための一種のプレイだと思っていると言っていたが、そのまま勘違いしてくれていた方が都合はいい。
しかし、やはり少しの罪悪感はあった。


「んーー!もう!モヤモヤするー!!」


立ち止まりそう叫ぶと、背後から声が聞こえてきた。

「モヤモヤするのも結構だが、今は頭ボサボサな事を気にした方がいいぞ」

気の抜けた声、人をバカにする発言。ハァ、とため息をつき振り向くと、予想通りの人物が立っていた。

「銀さん…」
「そんな嫌そうな顔してんじゃねーよ。一緒に帰ろーぜ」

ヘラっと手を振ってきたのはモヤモヤする原因をつくった本人でもある坂田銀時だった。確かに帰るのは一階か二階かが違うだけで、同じ場所にあるスナックお登勢と万事屋銀ちゃんだ。
仕方がないと諦め、ましろは銀時が自分の隣まで歩いてくるのを待った。

そしてその手にはコンビニの袋が下げられている。

よりによってなんでこんな日に朝活してやがりますかね

ましろは寝グセを手でおさえながら銀時に悪態をついた。

「現れるなり微妙な韻踏みつつディスりやがって…高等テクニックかコノヤロー。寝起きに出会いたくないランキングわりと上位の銀さんに会ってしまったちくしょう返せよ私の乙女心、恥じらいをよお!こんな姿見るんじゃないよ!」
「……お前、買い出しじゃなくて朝帰りなのか?」

寝起きというましろの言葉に反応した銀時が顔をしかめながらそう尋ねる。

この人、もしかして私が男の家から帰ってきたとでも思ってるのか?

そう気付いたましろは悪戯心が湧き、少し銀時をからかう事にした。

「そう、朝帰り。いやあ昨日あんまり眠れなかったから眠くてたまらない」

一つも嘘は付いていない。お妙と話し込んでしまい寝たのは夜中だった。

銀さんどんな反応するのかな
ましろはニヤリと笑い彼の顔を覗き込んだ。

「……そうか」

思っていた反応とは違う銀時を見て、ましろは思わず慌てふためいた。

「ちょ、え、なんで傷付いてんの?汗 お妙の家に泊まってただけだよ!汗」
「汗って、それ口に出して言うのおかしいだろ」
「でも"焦"ってる表現は出来てたでしょ?"汗"だけに!わははは!」
「おっさんかよ…」

チラリと銀時を見ると、いつも通りの表情に戻っていた。
ましろはホッと胸をなで下ろした。なにも傷付けるつもりはなかったのだ。

焦っていたのを誤魔化すように笑い続けているましろ。
そんな彼女の左手を、銀時が突然掴んだ。

「ましろちゃんよ、俺はお前の事が好きだって言ってんだ。冗談でも他の男匂わすようなこと言ったら妬いちまう」
「うん!?えっ、と…!」
「……それに、心臓に悪いからやめてくれ。お前が他の奴となんて、考えただけでダメだわ」
「!?!?!?」

左手をギュッと握りしめられたましろは混乱した。

銀さんってこんな人だったっけ!?!?

照れやら申し訳なさやらで百面相するましろを見て、銀時がブハッと吹き出した。

「お前、焦った時にするその顔まじでブサイクだぞ」
「!? はあ!?今私のこと好きって言ってたよね!?」
「あーはいはい。好きですよ。好きだけどブサイクだとは思いました」
「なに言ってやがる…こんな美少女にブサイクな瞬間などない…」
「お前が何言ってやがる」


銀時とましろは何事もなかったかのように再び家に向かって歩き出した。
しかしさっき掴まれたましろの左手はそのまましっかりと銀時の右手に包まれている。

「(こんなとこ知り合いに見られてたらなんて説明すりゃいいのよ…)」

そう思いつつも、ましろも握られた手の温もりを手放すことはなかった。


「銀さん」
「あ?」
「…まだお登勢さん寝てるかもしれないし、少し遠回りして帰る?」
「……おー」


少し気だるげに答えた銀時を見て、思わずましろは笑ってしまった。


(本当は嬉しいくせに)

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