惚れたら負けでも勝ちに行く


01 惚れたら負けでも勝ちにいく


私にとって万事屋のみんなは家族だ。
幼い頃寺子屋で一緒に学んだ銀時が大人になり始めた仕事。当時行く当てもなかった私は拾ってもらうような形でココで働くことになった。
今では銀時、新八、神楽ちゃん、定春に囲まれ幸せに過ごしている。常に金欠だけど。

と、簡単な自己紹介を終えたところで!

実は私は寺子屋時代から今まで銀時に片思いをしている。いじめっ子から助けてもらったからというありがちな理由。彼にとっては気まぐれだったのかもしれないけど、ただただ嬉しかった。それ以来ずっと銀時が好き。
だから幸せ。一つ屋根の下一緒に暮らせるだけでほんっっとに幸せ。

「銀時〜!今日も見目麗しゅうございます〜!」
「どこがネ。ただのもじゃもじゃしたグータラヨ」
「何言ってるの神楽ちゃん!この魅力がわからないなんて!私にしちゃライバルが減ってありがたい限りだけど!」

大体の朝はこうやって始まる。
朝食を作り終え、神楽ちゃんに手伝ってもらい食卓に並べているとお腹をかきながら銀時が起きてきた。それでさっきのセリフが出たのだ。

「朝からうるせぇな。ん?おいおい、イチゴ牛乳はどうしたよ。準備しとけって言ってんだろ」
「ダメよ銀時!あなた糖分とりすぎ。長生きしてほしいからたまには控えてね」
「口うるせぇな、お前は母親か。同い年のはずだろ。そんなんじゃ人一倍老けるぞ、貰い手無くなんぞ」
「大丈夫、銀時に貰ってもらうから」
「なんで俺が「貰ってもらうから」


こゆきが笑顔でそう言い切ると銀時は苦笑いしながらソファに腰掛けた。毎日毎日行われる求愛を受け流し続けている銀時に、神楽が冷たい視線を向ける。


「こゆきは美人なのになんでこんな奴。しかも銀ちゃんは全くなびかないし。最低ネ。そんなの女の幸せじゃないヨ」


やれやれと言った様子で卵かけご飯を流し込む神楽にこゆきがお茶を手渡しながら話す。


「ううん、神楽ちゃん。私が何年も銀時のことを好きなのは知ってるでしょ?戦争で離れた時銀時が死ぬかもしれないと思ったのね、それでどうせならちゃんと気持ち伝えとけばよかったってすごく後悔したの。だから今こうして一緒に居て、好きって伝えられる毎日はとーーーっても幸せ!だからいいの、心配してくれてありがとね」


ニコニコと笑うこゆきを見て、神楽はため息をついた。


「恋愛は惚れた方が負けヨ。一方的に負けからスタートしたこゆきは大変ネ、せいぜい頑張るヨロシ。ただし銀ちゃん、いつも言ってるけどこゆき泣かせたら私がお前を泣かすぞ」
「夜兎に言われると死刑宣告みたいに感じる」
「目には目を、歯には歯を、ネ」
「目には日本刀、歯にはバズーカくらい釣り合ってないんですが」


ギャーギャー言い合う2人を見て微笑ましく思う。私も遅れて食べ始めると玄関がガラガラと開いた。


「おはようございます!また言い争いですか?いい加減にしてください。ほら今日は依頼の日でしょ!さっさと準備してください」


忘れてた!と慌てて外行きの着物に着替えたこゆきは未だ食べ続ける2人を促し、依頼人の元へ向かった。


* * *


「遅れてすみません、万事屋のものです。それで、依頼内容は?」


銀時に代わり、依頼人の夫婦であろう男女に話しかける。齢は30くらいだろうか?私と銀時よりは年上のようだ。


「聞いてください!この人、私の方が好きだって言ってるのに俺の方が好きだって譲らないんです!私はこんなに想ってるのに…こんなに人の気持ちを分からない人とは離婚です!いくら言ってもきかないから万事屋さんに説得してもらおうと思って依頼いたしました」
「とまあ妻がずっとこの様子で…夫婦喧嘩は犬も食わないと言いますが、どうか仲直りを手伝ってくれませんか。僕はそのつもりで依頼したんです…」


なるほど、だから同じ住所同じ苗字で2つ依頼が来ていたのかと納得する新八。しかし、万事屋代表である銀時の目はいつにもまして死んだ魚のようだった。
それでも仕事だからとやれやれといった様子で口を開いた。


「いや、お二人さんね。落ち着いて考えてください。奥さん、あんたは旦那さんのことそんな好きなら簡単に離婚なんて口にしちゃあいけねぇ。あんたの好きってそんなに無責任な気持ちなのかい?
旦那さんも、奥さんの性格わかってんなら一歩引いてやるのも優しさだろ。せっかく好き合って一緒になってんだ。もう一回ちゃんと話し合ってみてくれませんかね」


その言葉をきいた夫婦はハッとし、謝り合い仲直りをしたようだった。
あまりにも短時間で解決した依頼の割には多めの謝礼を渡され、依頼主の家を後にした。


「意外でした、銀さんのくせに恋愛に関して結構まともなこと言えるんですね」
「俺だって大人だぞ。恋愛の1つや2つ経験済みだ、舐めんな」
「えっ銀時!私という女がいながら浮気したことあるの!?最低よ!」
「お前とそういう関係になった記憶はありません。自由恋愛です」


それも、そうだよね。私はずっと好きだけど銀時はずっと拒んでいる。彼がどんな恋愛をしていようと私には関係ない。わかってるはずなのに、この胸の痛みはどうしようもない。二十代半ば、人によっては旬を過ぎたと評されるかもしれない。それでも銀時以外を好きになったことのない私に恋愛経験はない。


「こゆきさん、銀さんなんてやめたらどうです?おそらくその方が幸せになれますよ。この人常に金欠だし」
「そうそう、俺は常に金欠だからもっと金持ちと結婚でもなんでもしちまえ。でもなんかムカついたから新八お前減給な」
「払うもの払ってから偉そうなこと言ってください」
「ぐうの音も出ん」


私だってわかっている。このままこの人を好きでいたところで叶う可能性は低いということは。それでも、それでも…。


「今の銀時全部ひっくるめて好きだから、そんなの関係ないの!もう少しだけ好きでいさせてよ、ね?」


無理に笑いながら言うこゆきに、銀時の顔が一瞬歪んだ。そんな様子を見て新八と神楽が顔を見合わせる。


「(神楽ちゃん、僕ずっと思ってたんだけど、もしかして銀さんもこゆきさんのこと…)」
「(新八の割には鋭いネ。私もこの様子見るとどうもそうじゃないかと思ったところヨ。でも、だとしたらなんで銀ちゃんはそう言わないんだろ?)」
「(何か理由があるのかもしれませんね。僕たちにできることがあればいいんだけど…)」


そんなやりとりを知る由もないこゆきは、勝手にしろよとだけ言った銀時をみて微笑んでいた。


2人の気持ちが重なり合うのはもう少し先の話。

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