余計なお世話マジ下世話


02 余計なお世話まじ下世話


「え?御曹司の婚約者役?」
「そう、簡単なのに高報酬。やったな」

珍しく銀時から話しかけてきて小躍りしたらその内容はこれ。おそらくさっきかかってきた電話で受けたんだろう。
御曹司の婚約者?あらかたお金持ちの集まるパーティかなんかで紹介したりするんだろう。そんなのやってられない。


「私じゃなくてよくない?神楽ちゃんは?新八が女装するのは?」
「神楽はまだガキだし新八なんか行かせたら御曹司どんな性癖の奴だと思われんだろ。そもそもお前をと名指しで受けた依頼だ。お前も隅におけねぇな」


私を名指し?なにそれ御曹司と知り合う機会なんてまったくなかったんだけど。


「やだよそんなの。私には心に決めた銀時がいるのよ!この恋が実るその時まで、恋人役なんて演技でもしたくないわ」
「心に決めた銀時てなに?ワガママ言うなって、これ受けりゃ1ヶ月フルで働くよりも稼げるんだぞ?」


そう、銀時は私が嫌だって言ってるのに稼げるかどうかで判断するのね。
少し苛立った私は無言のまま首を縦に振った。



* * *


「わー!綺麗ネこゆき!馬子にも衣装ヨ!」
「神楽ちゃんそれ褒め言葉じゃないからね。それにしても本当に綺麗ですこゆきさん!とってもお似合いです」


依頼人との待ち合わせ場所であるパーティ会場につくといきなり複数人に囲まれ、普段着ることのないドレスを着せられ、ヘアメイクを施された。
神楽ちゃんと新八はそんな私を見て目をキラキラさせながら褒めてくれるのに、銀時といえばボーッと鼻をほじっている始末。あの天パ許さんさすがにそれは許さん。


「…で、さっきからずっと見てくる貴方が依頼人ですか?」
「そ、そうです!藤野鉄之助と言います。今日はその、よろしくお願いします!」


藤野と名乗ったその男は想像していたよりもずっと誠実そうで、少し気が抜けてしまった。


「今日はどういった演技をすれば?」
「あ、はい!僕恥ずかしながらまだ独り身でして…心配する父親に見栄を張って婚約者がいると嘘をついてしまったんです。喜んだ父がこんな婚約パーティを企画して…なので今日はこゆきさんに恋人役をお願いしました。付き合って一年、僕が一目惚れしたことにしておいてください。設定はそれくらいで大丈夫です」


内容は非常に簡単だ。どうせ請け負ったからにはと、こゆきは気を引き締めて臨むことにした。



* * *


「父もすっかりこゆきさんを気に入って信じてくれたようです!これでとやかく言われる心配はない!本当にありがとうございました!よろしければパーティをこのままお楽しみください」


無事父親との面会を終え、ホッと一安心した。
この後、しばらく日を置いて私とは性格の不一致で別れたことにするらしい。
婚約破棄したとなると父親も気を遣ってうるさく言ってこないだろうからとのことだった。


今日の仕事は終わり。よく頑張った、私!


私は藤野さんのお言葉に甘え、少しうろつくことにした。
神楽ちゃんは豪華なお食事、新八はゲストとして呼ばれたアイドルのステージ、銀時は沢山の甘いスイーツに夢中になっているようだ。
特にすることもなく飽きた私は会場の外に出てロビーの椅子に座った。慣れないヒールを履いているので流石に疲れる。


「お嬢さん、大丈夫ですか?」
「ええ、お構いなく…って近藤さん!?どうしてこんなところに…」


顔を上げてみると真選組局長の近藤さんが心配そうな様子で立っていた。
真選組の皆さんにはちょくちょく会う。真選組と万事屋のメンバーは腐れ縁のようなもので繋がっているのかもしれない。


「ん?おお、こゆきか!気付かなかった!いったいそんなに着飾ってどうしたんだ?」
「ちょっと仕事してました。もしかしてこの会場の警備かなんかですか?」
「そうだ。金持ちのパーティがあるらしくてな。とっつぁんに言われて真選組出動ってわけさ」


真選組の人たちが出て来るなんて、思っていたよりもセレブな人たちなのかもしれない…急に不安になってきた。あまり目立つことして粗を出したくないな。


「こゆきがいるならトシと総悟も呼んでやろう。おーい!トシ!総悟!」
「ちょっ、そんなに目立ちたくないんです!静かに!」
「おーい!こゆきがここにいるぞー!」
「オイゴリラ!きこえてるのか!耳にバナナでも詰まってるのか!」


ハッと周りを見渡すと、着飾った人たちがヒソヒソとこちらをみている。おそらくパーティ参加者だろう。まずい、非常にまずい。


「お、オホホホ面白い方ねさすが局長様だわ。思わず普段ではしないようなツッコミをしてしまったでザマスわよ!」
「こゆき、それはだいぶセレブを履き違えてると思うぞ」
「土方さん、それに沖田さんも!」
「呼ばれたと思って来てみりゃ、どういう風の吹きまわしですかィ?なんでこゆきさんがドレスなんて着てここにいるんだ」


こちらをみる沖田さんが不思議そうに尋ねてきた。嘘を言ってもめんどくさいし本当のことを話そう。


「…ってわけで、恋人のフリをするっていう仕事だったんです」
「万事屋の奴らが関わってんならロクなことなさそうだな」
「土方さんもそう思います?私も万事屋にいながら思います。第一恋人役なんてバレたら大変じゃないですか、私ばかりにプレッシャーかかりましたよ」
「ちょ、こゆき」
「それにいくら高報酬だからってこんな仕事受ける銀時も銀時です。私の気持ち知ってるのに…あーあ、なんであんなモジャモジャ頭を好きになっちゃった、の……やば」


土方さんが気まずそうな顔をして私の背後を見ていたから私も振り向いてみた。そこには藤野さんのお父様が怒りの表情で立っていた。


「こゆきさん、これはどういうことかな?」
「あ、あのお父様!これはその!あのですね!」
「父さん!!」


どう言い訳するか悩んでいると、藤野さんが青い顔をして飛んできた。


「父さん騙してごめん。たしかにこゆきさんは雇った女性で僕の彼女じゃない。…でも、僕が一目惚れしたってことだけは本当なんだ」
「え…?」
「こゆきさん、こんなことに巻き込んでごめんなさい。…僕は以前街で君を見かけて一目惚れしてしまったんだ。君が万事屋さんだと知って今回依頼させてもらった。君と、何か接点が持てればと思って」


申し訳なさそうに言う藤野さんに何も言えずにいると、騒ぎを聞きつけた銀時、神楽ちゃん、新八がやってきた。恐らくこの状況をみて理解したんだろう。銀時がやべぇといった顔をしている。


「あ、あの藤野さん…」
「こゆきさん、こんな告白はずるいかもしれないけど、よかったら本当に結婚を前提に付き合ってくれませんか?」
「…愚息が誠に申し訳ない。君さえよければこいつの気持ちに応えてやってください」


親子揃って頭を下げる2人を見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。私には、誰がどう言おうとも心に決めた人がいる。それは絶対に変わらないのだ。私の好きな人は今までもこれからもずっと1人だけ。


「…あの、私は」
「いいじゃねぇかこゆき」
「ちょっと銀さん!」
「うるせーよ新八。こんないい話ねぇだろ。優しい金持ちに見初められるなんて女にとってこれ以上ない幸せだ。こゆきもようやく身を固められ…」



パーンッ



乾いた音が辺りに響いた。
目に涙を浮かべたこゆきが銀時の頬を叩いたのだ。


「こゆき!」


神楽が止めるのもきかずそのまま走り去るこゆきの後を新八と神楽が追う。


「おい、あのままじゃ危ねぇ。俺らも追うぞ近藤さん、総悟」
「…惚れた女泣かせるなんてかっこ悪りィですぜ、旦那」



見知った顔がいなくなった会場で、藤野に謝罪を入れた銀時は1人万事屋へ向かった。



「(惚れた女だからこそ、だったんだがな)」


外は、いつのまにか雨が降っていた。

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