少し当てつけの決断みたいで


03 少し当てつけの決断みたいで


あれから3日が経った。咄嗟に会場を飛び出した私を捕まえたのは土方さん。万事屋に帰りたくないという私を真選組の屯所に泊まらせてくれている。
山崎さんが教えてくれた、万事屋にも土方さんがわざわざ連絡してくれたらしい。


藤野さんには改めてお断りの連絡をいれた。気持ちは嬉しい、でも好きな人がいるからと。
彼は応援しています、と優しく言ってくれた。


「好きな人って言っても、ここまで一方的じゃね…」


貸して貰っている小さな部屋の窓辺で外を見上げると、雲一つない青空が広がっていた。
清々しい朝だ。それでも私の心は全く晴れることがない。


きっと、銀時は私のことなんて。


いつまでも真選組の人たちの優しさに甘えるわけにはいかない。土方さんは気がすむまで居ていいと言ってくれた。それどころか私をここで働かせてくれるとまで言う。
流石に申し訳ない、そう伝えても気にするなと近藤さんまでもが言う。局長という立場だ、相当忙しいだろうに微塵もそれを感じさせず豪快に笑い、居続けさせてくれる。
こんなに優しい人はなかなかいない。お妙ちゃん、近藤さんの気持ちに応えてあげればいいのに…。
きっと片思いをしているという共通点があるから私たちは気が合うんだろう。片思いの辛さも、楽しさもわかっているから。


「こゆきー!来たヨー!」


門の方から神楽ちゃんの声がきこえた。

会いに来てくれたんだ…。
やっぱりその声を聞くと安心して、私って本当に万事屋が好きなんだなと気付く。


「うるせーよチャイナ。俺らはこゆきさんだから入れてやってんだ。アポもなしに来んじゃねぇよ」
「あぁん?お前がうるさい!こゆきに媚び売るガキがよぉ!家族に会うのにアポなんかいらないネ!」
「す、すみません沖田さん!よろしければこゆきさんに会わせてください」


家族。そう言ってくれた神楽ちゃんとわざわざ来てくれた新八がとても愛おしくなって、門へむかった。


「沖田さん私のせいで煩わせてごめんなさい。ご迷惑にならないように少し外に出ますね。2人とも、甘味処にでもいこうか」
「「こゆき(さん)!!」」


私の顔をみて嬉しそうに笑う2人をみて、私も3日ぶりに笑えた気がした。



* * *


「で、なんでお前もついてくるネ」
「一応こゆきさんはうちが預かってるんで、何かあったら困んだろ。護衛だ護衛」
「私と新八がいるからそんなの要らない!ただこゆきと居たいだけダロ!くっつき虫!」


神楽ちゃんと沖田さん、2人はこうやって言い合える程仲がいいんだと思う。私と銀時は言い合いも何もない、一方的な会話ばかりだ。
…何かと言えば銀時のことを考えてしまう。敢えて距離を取っているのにこんなんじゃ意味ないなぁ。
少しだけ、銀時も来てくれてるんじゃないかと期待してた自分が嫌だ。


このままじゃダメなことは私が一番わかっている。


「…こゆきさん、そろそろ帰ってきませんか?あのモジャモジャのことは気にすることないですよ」


こちらの顔色を伺うように新八が口を開いた。でも私は…。


「新八、神楽ちゃんあのね、私土方さんにその、真選組で働かないかってお誘いを受けたの。女中みたいな感じかな、掃除したり食事作ったり。すごくありがたいなって思ったの。一応万事屋の代表である銀時にあんな態度とっちゃった以上、合わせる顔なんてないよ」


だから…。


「私、万事屋辞めるね」


ニッコリ笑いながら言うこゆきをみて、神楽と新八、沖田までもがただ驚くしかなかった。


* * *

神楽と新八は意気消沈しながら万事屋に帰って来た。
ジャンプ片手に戻ってきた銀時に、2人は今日の出来事を伝える。


「銀ちゃん!!!本当にこれでいいの!?こゆきが辞めちゃうんだヨ!?」
「っせーな。本人が決めたんなら仕方ないだろ。それに真選組で雇ってくれるって言うなら問題もねぇ」
「っ!!本気で言ってるんですか!?こゆきさんはあんたのこと…!」
「うっせーって言ってんだろ!…何も会えなくなるわけじゃねぇ。アイツの好きにさせとけ」


いつもと違い余裕がなさそうに言う銀時に、それ以上何も言えなかった。
不穏な空気を感じたのか、定春が悲しそうな声を上げながら神楽にすり寄る。


「…定春。大丈夫。こゆきは絶対帰ってくるヨ」

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