自分に嘘付き傷付き弱い


04 自分に嘘つき傷付き弱い


こゆきが万事屋を辞めてから一ヶ月が経とうとしていた。
頻繁に会いに行っている神楽と新八によれば、少し落ち込んでいるようにはみえるが元気にやっているらしい。
俺はといえばあれ以来顔も見ていない。その資格もないだろうから。


依頼もなく家でボーッとしてると扉を叩く音が聞こえてきた。


「新八、出てこい」
「…わかりました。…あ、桂さんそれにエリザベスも」

招き入れられたのは見知った顔の長髪男とプラカードで意思疎通を図る謎の白い生き物だ。(ペットと言い張るが流石に無理がある気がする)


「銀時、邪魔するぞ」
「ンだよヅラかよ。何の用だ」
「ヅラじゃない、桂だ。…噂通りこゆきは出て行ったようだな」


桂がそう言うと、神楽も新八も下を向き重苦しい空気が流れた。
今のこいつらにはこゆきという名前は禁句だ。


しかし確かに寺子屋から一緒だったこいつもこゆきを心配しているんだろう。


「わざわざそんなこと言いに来たのか?あいつは今は真選組にいる。楽しくやってるんじゃねえの」
「そうではない。なぜ出て行ったのかを聞きにきたのだ。あらかたお前が余計な事でも言って怒らせたんだろう。こゆきがお前の元から去るなんてよっぽどだぞ」


新八が何か言いたげにこちらをみるが、グッと口を結び直しまた下を向く。
そんな重苦しい空気に耐えられなくなったのか神楽が立ち上がりダンッとテーブルに足を乗せた。


「ヅラ!こゆきを連れ戻しに行こう!もう無理やりでもなんでもいいヨ!こゆきには…こゆきにはやっぱり私たちの側で笑っててほしい!!」
「リーダー…」
「何言ってんだ。アイツは自分の意思で行ってるのに連れ戻すも何もねぇだろ。帰りたきゃ自分から来るさ、ほっとけ」


椅子をグルリと回転させ騒いでいる奴らに背を向けると、わざわざ俺の目の前まで新八が回り込んできて胸ぐらを掴んだ。


「銀さん、あんたいつまでそうしているつもりですか!こゆきさんはずっと真っ直ぐ銀さんに好きだと伝えてた!本当は銀さんだってこゆきさんのこと…なのにどうして自分も惚れてると言ってあげなかったんです!どうして突き放すような事言ったんですか!」


新八の目からは涙がこぼれている。
新八の震える手を簡単に振りほどき、乱れた着物の胸元を直す。


俺の手も震えていた。


「…惚れてるからこそだろーが」
「え…」
「惚れてるからこそ、普通の奴と結婚して普通の幸せ手にして欲しかったんだ。
俺は何回も死にかけてきた。その度にアイツは泣くんだよ。人の前では気丈に振る舞って、誰もいねぇところで泣くんだ。もうこれ以上そんな顔見てられるか…」
「銀ちゃん…」


俯き右手で顔を覆う銀時をみて、神楽はそう呟くことしかできなかった。


「…こゆきを諦めた腑抜けより、アイツを守らんとする真選組の奴らの方が今はよっぽど漢だな。しかし俺はお前だからこゆきを託したんだ。忘れてくれるなよ銀時」


桂はそう言うと踵を返し玄関から出て行った。
その後ろ姿を見るエリザベスは、プラカードを掲げる。


『桂さんは真選組に乗り込んでこゆきさんをさらう気です。桂さんを助けてください。』


物言わぬエリザベスの目から、一粒の涙がこぼれた。

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