惚れた晴れたで目が腫れた
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06 惚れた腫れたで目がはれた
「近藤さん…」
「よ!こゆき。こんな所にいたのか」
鍵を開けてくれたのは近藤さんだった。小太郎の襲撃で大変だろうに、私に心配かけまいとしているのだろうか。彼は微笑んでいた。
「どうも桂はこゆき目当てで来たみたいだな」
「…ごめんなさい、小太郎とは幼い頃からの仲なんです。私のわがままで真選組にいさせてもらっているのにこんなことになってしまって…」
「こゆきの意図したことではないだろ。謝る必要はない。しかし、だ。万事屋の連中まで乗り込んで来た。さすがにまずい」
「え、そんな…どうして…!」
ぽりぽりと頭をかく近藤さんは、反対の手で私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「お前がそれだけ大切にされてるということだな。こゆきは真選組では器が小さかったらしい」
この事態を収めるためにも俺は今からお前をアイツらに受け渡す。
近藤さんはそう言うと私に手を差し出した。握り返した手は見た目よりもずっと頼もしかった。
* * *
「は〜お前もなかなかしぶといねぇ」
「そっちこそだ。わかってんのか、打ち首もんだぞ」
銀時と土方は未だ交戦していた。勝負は五分五分、すぐには決着もつきそうにもない。銀時は焦っていた。今こゆきがどのような場所にいてどのような状況に置かれているかもわかっていない。
「確かに打ち首だろうな。だがな、惚れた女守れねぇような奴は首繋がってたところで生きてる価値なんぞねぇんだよ!」
相手は真剣、こっちは木刀だ。獲物の差が少しずつ出始めている。その焦りが銀時の刀に隙を生じさせた。土方は、それを見逃さない。
「やめろ!トシ!!!」
すんでのところで土方を止める声が聞こえた。
「近藤さん…こゆきまで」
声の方向をみると近藤と、手を引かれたこゆきが立っていた。互いに怪我をしている銀時と土方をみて、こゆきの顔は真っ青だった。
「銀時!!!」
真っ先にこゆきは想い人の元へ走った。大丈夫?と涙を流す彼女をみて、土方は一瞬顔を曇らせたがすぐに近藤と向き合う。
「近藤さん、あんたどういうつもりだ?これはもうこゆきを返したからといってどうこうなるもんでもねぇぞ」
「しかしこゆきがいれば恐らく桂は止まる。とにかく急いで桂の元へ行くぞ!」
土方、そしてこゆきに肩を貸された銀時の3人は近藤の後に続いた。
* * *
「桂さん!とりあえず引きましょう!もう僕達ももちません!」
「…俺の爆弾ももう手持ちがない。万事休すと言ったところか」
真選組の強さに押されていた桂側の面々は互いの背を互いに託しジリジリと距離を詰めてくる沖田達と睨み合っていた。
「総悟!お前たち!待つんだ!」
間一髪間に合った近藤が大声で叫ぶ。
「こゆきを受け渡そう!本人もそう望んでいる!」
桂は銀時の隣にいるこゆきをみて複雑な笑みを浮かべながら叫び返した。
「俺の目的はこゆきを返してもらうことだ!我が仲間がそれを果たした今ここに用はない!サラバだ!」
そう言うとボフンと煙幕を焚き、煙が晴れたころには桂とエリザベスの姿は消えていた。
「アイツ!1人で逃げやがったネ!」
「どどどどどうしましょう、これじゃ僕達だけが真選組襲撃の責任を取らされちゃいますよ!」
首謀者が消えた今、その責任はどうしても万事屋が取らなければならない。
終わりだ、そう思った時、こゆきが近藤にむけ土下座をした。
「今回の事は私の勝手なワガママが引き起こしたこと!責任は私にあります!虫のいい話をしていることはわかっております!ただ、どうか…どうか罪に問うのは私だけにしてください!」
必死の願いだった。万事屋も真選組も、こゆきにとって大切な場所だ。桂だって大切な仲間であり、これ以上誰かが傷付くのは耐えられなかった。
強く地面に擦り付けている額からは血が滲み出した。
「頭をあげてくれこゆき」
そう促す近藤の声にも、こゆきは姿勢を崩さない。
「…今回の事は俺に任せてくれ。たしかに桂の襲撃は許されることではない。しかし1人の男が1人の女を想いやってしたこと、万事屋の連中だってそうさ。仲間を助けたい一心だった、それだけだ。その気持ちは犯罪ではないよ」
「…どんだけお人好しなんだよあんたは」
タバコをふかしながら土方が言う。しかしその言葉をきいて改めてこゆきは頭をあげられなかった。
涙でぐちゃぐちゃな顔を誰にもみられるわけにはいかなかった。
* * *
あれから数日。沖田さんによると隊員さんたちに大した怪我はなかったらしい。(土方さんと銀時があの日1番の重傷人のようだ)
小太郎も敢えて怪我人を出さないようにしていたのだろう。しかし彼はさらに重罪人となってしまった。今もまだ逃げおおせてはいるがあの時逃げ出すのを近藤さんがわざと見逃していなければ今頃は打ち首だっただろう。
近藤さんには頭があがらない。結局1人で責任をかぶって松平さんから大目玉をくらったらしい。
それでも私には気にするなと笑ってくれた。
そういう訳にはいかないから、万事屋は無償で真選組屯所の修復を手伝うことにした。流石の銀時も承諾したようだ。
私はと言えば、ちゃっかり万事屋に帰ってきていた。
土方さんに言われたのだ。
『攘夷志士やそれに協力する万事屋と繋がっている奴なんか真選組に置いとけねぇ。解雇だ解雇』と。
それが彼の優しさなのはわかっている。私が帰りやすいようにわざと突き放してくれたのだ。
いつか恩を返さないといけない。この莫大な恩を。
そんなことを思いながら万事屋の掃除をしていると、神楽ちゃんに呼ばれた。
「こゆきー酢昆布切れてるー買いに行こうヨー」
「あ、忘れてた!そうね、買い出しに行こうか!」
「こゆきさん、洗剤もないですよ」
「あぁ〜さっきまで覚えてた!ありがとう新八!洗剤ね」
「こゆき」
「何銀時!私は今度は何を買い忘れている!?」
平和な日常、今までと変わらない日常が戻ってきた。
「俺が言い忘れてたんだ」
「ん?何を?」
私に加え、神楽ちゃんと新八もポカンとしている。
「なんつーかな、クソ、言い慣れねぇこと言おうとするもんじゃねえな」
「どうしたの…?」
彼の目はいつにもなく真剣だ。
「こゆき」
「はい」
「…本当はずっとお前のことが好きだった。お前さえよければ…その、なんだ。今後一生かけてお前を幸せにさせてくれ」
身体が震えているのがわかった。脚に力が入らない。思わず床に崩れ落ちると慌てて銀時が駆け寄ってきて、心配そうに私の肩をつかんだ。
「あ、あの、冗談では、ないですよね…?」
「俺がこんな小っ恥ずかしい冗談言うかよ」
「私、ずっと片想いだと思って、て」
「…わりぃ。俺が自信がなかっただけだ。俺はずっと、お前が俺を好きになるよりずっと前からお前を見てた。諦めようとしても、諦めきれなかった。だがようやく言える。…好きだ、こゆき」
「…っっ銀時ぃぃ!!」
「うわ!泣くな!しかも鼻水!ちょ、お前鼻水つけんなって!!」
そう言いながらも抱き着く私を優しく抱き返してくれた。ふわふわの髪の毛が顔をくすぐる。なんて心地がいいんだろう。
新八と神楽ちゃんがいる方からも、鼻をすする音がきこえる。そちらを見ようにも、涙が邪魔をして視界はゼロ。
気付けば神楽ちゃんに新八、定春まで抱きついてきて、銀時にお前らうぜぇ!と振り払われていた。
それでも銀時は私の手だけは絶対に離さなくて。単純な私はその繋がれた手を見るだけでこの長い長い片想いも報われたなと思えた。
平和な日常、でも確かに大きな何かが変わった幸せな日常がこれからはじまるのだ。
糖分過多にならぬよう
「それにしても土方さん、あんたが大人しく引き下がるたぁ珍しいこともあるもんでさァ。旦那に負けを認めるんですかィ?」
「そんなんじゃねーよ。俺はただこゆきは…」
* * *
『桂さん』
「なんだ、エリザベス」
『あそこまで身体張ったのに、結局こゆきさんを手に入れられなくてよかったんですか?』
「なにを言っている。そんなことが目的だったのではない。俺はただこゆきは…」
「「アイツはあの場所で笑って騒いでる方が似合うと思っただけだ」」
fin.
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