■ めんどくさがり症候群

女なんてめんどくせー生き物で、できることなら関わらずに生きていきたいと考えていた。
やけに群れを成し、誰か1人がかわいいと言いだしたらそれがどんなものかよく確認もせず同意する。そんなもん。みんなそう。だと思っていた。あいつと隣の席になるまでは。


「シカマルー!おはよ!今日は朝早いね珍しいじゃん!」
「おー名前。相変わらず朝から元気だな。」


アカデミーで隣の席になった数年前、初めてこいつに出会った。名前、こいつは底抜けに明るくてお人好しなやつだ。

「元気が1番!私は今からキバと修行!」

キバと、修行。

「…2人きりでかよ。」

思わずそう言ってしまったが、名前は赤丸もいるから2人と1匹だよーと太陽のようににこにこと笑う。
名前は他の奴らとは違う。決して群れることはしない。それなのにこいつの周りにはいつも人がいて。自分の意見はしっかりと持っている。誰がなにを言おうと自分の意見は変えない。そんな奴。


「よかったらシカマルもどう?キバも相手が増えるのは嬉しいと思うんだけれど。」

俺はこいつの純粋な優しさを利用することになってでも、他の男と2人きりになんてさせたくなかった。


「ああ、そうだな。暇だし行ってやるよ。」


キバにはわりぃけどな。


「ってわけで、シカマルもきたよー!やったね!キバ!」
「…シカマルが?わざわざ?」


そりゃそうだ。普段こいつにどんだけ誘われても断ってきた俺だ。そんな顔にもなる。

「わりいな、キバ。今日は修行に全力で付き合ってやるから許せ。」
「ったくよー!お前もわかりやすい奴だな、シカマル。」

ニヤニヤとした顔でこちらを見るキバ。

「なに?わかりやすいって?まぁそんなこといいからほら、さっそくやろ!」


恐ろしいまでにまっすぐな名前に促され、2時間ほど真剣に修行に励んだ。
キバと赤丸のコンビネーションはますます磨かれており、こりゃ俺もうかうかはしてらんねぇなと気合を入れ直した。


休憩に入り腰を下ろしたところで、キバが俺の隣に来た。やべぇ、めんどくせぇ。


「おいシカマル。そういうことなのか?」
「なにが。」
「お前名前狙ってんの?」
「…うるせえな。」


そういうと、まじかよ!!!と叫び後ずさりされた。
まあ俺が色恋なんて意外なのかもしれねぇけどな。めんどくせぇなんて言ってられねぇことだってあるわけで。


「ね、2人とも。喉乾かない?よかったら何か買ってくるけど。」
「おう、ちょうど思ってたとこ。俺買ってくるからちょっと待ってな。」
「あ、キバいいよ!私が!」
「いーのいーの、今日は2人が修行付き合ってくれたお礼。ま、お前には一個貸しだな〜シカマル。」


ヒラヒラと手を振りながらキバが去って行った。
余計なお世話に加え一言多い奴だが、好都合と言えばそうだ。いつも周りに人がいる名前と2人きりになるチャンスなんて滅多にない。


「キバってば優しいね、私だって修行付き合ってもらってるようなもんなのに。」
「…そうだな。」
「キバは動物にも好かれるし、素敵な魅力があるんだろうね。」
「…あんまりキバキバ言うなよ。今お前は俺と居るんだろ。」
「…どうしたのシカマル。らしくないね?」
「うるせぇな、たまにはいいだろ。」
「シカマル…?」

戸惑いながらも、笑みを浮かべている。そんな顔をさせたいわけじゃない。人にめんどくせぇめんどくせぇ言っておきながら、俺のこの嫉妬心が1番めんどくせぇじゃねえか。くそ、みっともねぇ。
俺は影を使った術を使うが、そのためには光が必要だ。俺にとってこいつは光そのもの…なんてらしくもねぇ想いが込み上げてくる。
光を得たいなら、俺も正面からぶつかるべきだ。影でこそこそしてる場合じゃねぇ。


「名前」
「ん?」
「好きだ。」
「へ、え、?なにを?」
「名前が好きだ。」
「ええ!?シカマルが!?なに!罰ゲーム!?」


あわあわと面白いくらいに焦る名前をみて、緊張して言った自分の方が余裕あるじゃねぇかと笑えてくる。


「まあ落ち着けって。」
「うわあ!」


名前の影を縛り、とりあえず落ち着かせる。ようやく冷静になったのか、縛られたまま名前が話す。


「あ、あのさ、シカマルってめんどくせぇてよく言うじゃない?だからなるべく煩わせないようにと言いますか、めんどくさいって思われないように接してたの…」
「…わりぃ、口癖みたいなもんだ。」
「そ、それはわかってたんだけどね?その、私も好きだから、嫌われたくないなって、その…おもって、て…わ!」

最後まで聴いてる余裕はなかった。影縛りをしたまま俺は名前を抱きしめていた。俺の動きにつられて名前も腕を開いたもんだから、なんの問題もなくしっかりと抱き合う形になった。


「んだよ、片思いじゃなかったのかよ。」
「アカデミーで隣の席になったときから好きだったよ…」
「…俺も。数年間も無駄にしちまったな。」
「無駄じゃないよ、ずっとシカマルのこと見ていて幸せだったし、これからだって隣にいれるんでしょ?」
「お前そんなセリフ簡単に言うな…」
「え、もしかして今シカマル照れてる?ねえ!影縛り解いて顔見せて!ねえ!」
「うるせぇ。もう少し縛られてろ。」


こんな顔みせられっか。あー今すぐキスしてぇ。でも影縛り解かねぇとそれも無理か。この顔の火照りが冷めるまでしばらく待つしかねぇ。でも抱きしめたままで冷めてくれるんかね、俺は。情けねぇ。
…こんないろんな感情抱えなくちゃいけねぇのかよ恋愛ってやつは。


はー、めんどくせぇな。





めんどくさがり症候群。
(まんざらでもねぇけど)




「なぁ赤丸、あんな雰囲気の奴らにジュースもってけねぇよな…」
「アン…」