■ 甘い、甘い、あかい

真っ赤な髪色なんて日常生活でよっぽど浮いてしまいそうなものなのに、私の彼氏はその色にすっかり馴染んでしまっている。黒髪のこの人なんて考えられないくらいに。

「ブンちゃん、なんでそんな色に染めてるのに髪の毛ふわふわなの?特別なことしてるの?」
「んにゃ、なーんにも」

なんて羨ましいんだろう。こっちがどれだけの神経(お金)をかけて髪の毛の維持に躍起になっているか知ったこっちゃないんだろうな。

と、私側に顔を向けた状態で膝枕されている赤髪くんの頭を撫でながら思う。
心なしか撫でるたびに甘い香りがするのは、彼が今食べているガムの香りなのかな。


「つーかお前こそ特別なことしてんのか?いっつもすげーいい匂いするし」
「そりゃまぁ、必要最低限のことはやってるよ!お風呂上がりのトリートメントくらいかな」

本当は結構気を使ってるけどあえて教えてはあげない。

「違う違う、ボディークリームとかしてんの?て話。髪じゃなくて。まぁ今の話の流れはややこしかったな」
「え、なんで?なにもつけてないけど…」

クンクンと自分を確認しても、無臭だ。
香水とかも具合が悪くなってしまうタチだからつけようとも思わない。

「なにもつけてないのにこんなに甘いにおいすんのか。俺聞いたことあるぜ、体臭がいい香りに感じるのは遺伝子レベルで相性がいいってやつ」

一気に言い終えたブンちゃんは、急に恥ずかしくなったのか向こう側を向いてしまった。

「なになに照れちゃって。かわいいなぁ。とっても嬉しいよ、ありがとね」

照れ屋ボーイはそのままなにも言わなくなってしまった。もう、こちらから話すきっかけを与えてあげよう。

「ブンちゃん、ガムちょうだい!」

膝枕されてた彼はよいしょっと起き上がってこちらに向き直す。

「わるい、丁度今きらしてんだ。俺も欲しいなとおもってたとこ」
「じゃあ、今食べてるのが最後なのねー。しょんぼり」
「いや?俺今日はまだガム食べてねぇよ」
「え、やけに甘いにおいがするんだけど…」


そこまで言って自分もブンちゃんと同じ穴のむじなであると気づいた。
カーッと顔が赤くなるのがわかる。それにつられてブンちゃんも真っ赤っか。


「俺たちまるでバカップルじゃねえか…」
「ご、ごめん」
「名前と話してると調子狂うわ…俺こんなキャラじゃねぇだろぃ…」


そう言って頭をかく彼からはやっぱりとてもいい香りがして、こんな香りにならば溺れてしまいたいなんてわけわからないことを考えちゃうくらいベタ惚れだっていう、そんななんでもない話です。