■ 十六夜

日本人は古来から完璧より少し欠けたものを好むという傾向があるらしい。


例えば月。
人は満月がいいと言うだろうが、その次の日、つまり十六夜がいいと言う人も少なくはない。
十六夜の月は十五夜のそれよりも少し欠けている。


欠けている方が美しいという感情はよく分からない。俺に分かる日がくるのだろうか。気になるところだ。


「ふぅ…十六夜、か…」


自分で興味を持ち調べることは多く繰り返してきたが、テニス以外のことでは久しいな。


「あ、柳。なにやってんの?」

本を読み終わり、図書室から出たところで幼馴染に声をかけられた。

「ん、ああ名前。少しレポートをな。お前も課題出されているだろう」

「レポート…そ、その事なんだけど…」

「?」


いつもは饒舌な彼女が大人しくしている。
どうしたのだろうか。


「わたしのレポート手伝って!」


…まあ予想はしていた。
こいつを想うのならば手伝わないのが無難なんだろうが、あいにく俺は甘い。名前にだけは何故かいつもそうなってしまう。


それに柳じゃなきゃダメなんだよとモゴモゴ呟く名前が妙に気になった。


「いいだろう。お前はなにを調べるんだ?」

「こ、恋に、ついて…」



日本人は古来から完璧より少し欠けたものを好むという傾向があるらしい。


例えば恋。
俺はこんなにも不器用な告白をしてきた奴に惹かれてしまっている。



十六夜
さぁ俺でよければ

いくらでも恋を教えよう