■ マスカラしてますから
朝目が覚めるとリビングにぱっつぁんがいた。
「へいそこの青少年おはよう」
「あ、名前さん。おはようございます。銀さんはまだ寝てるんですか?」
「ん、寝てる。いやー昨日の夜ちょっと激しくしすぎたかなー」
「ちょっとォオオオオオ!朝っぱらから下ネタぶっこんでくるのやめてくれません!?」
「ふっ。こんなことでうろたえるんじゃまだまだ大人にはなれないわね。まあ、私と銀時は完全な大人なわけで?そういうやらしい関係なわけで?いやーまいったまいっ…ふぐっ!!!」
「はよーっす。新八、名前が言うことはほぼほぼ嘘だ。銀さんは何もしていません。濡れ衣でーす。」
…いいパンチ持ってやがるぜ。いや、まあ、パンチというよりげんこつだったけれども。
あ、おい新八。なんだその哀れみの目は。名前ちゃん泣いちゃうからな。
「な、なによ!あんなに激しくしといてそんなこと言うなんてあんまりじゃない!」
「お前まじか」
「本当のところどうなんですか、銀さん」
「昨日は長谷川さんと飲んでただけだ」
「酔った勢いで、とかもありえるんじゃないですか?」
「は?お前酔ってたからってお子ちゃま貧弱名前ちゃんを抱くわけねーだろ。銀さんあなどってんじゃねえよ」
「よーし歯を食いしばれこの腐れ天パ」
「名前さん、本当にこの腐れ天パに手をだされたんですか?」
「あれ?なに、新八くんまで俺のことそんな呼び方すんの?」
「え、いや、嘘だけれども」
「今までの時間なんだったの!?」
そ、そんな呆れなくてもいいのに!
ただのおちゃめな冗談じゃない!これだから新八は。
僕神楽ちゃん起こしてきます、そう言って新八はいなくなった。
つ ま り、私と銀時は今2人っきり。
なにを隠そうわたくし名前はこのモジャモジャ白髪頭に恋をしている。(あんまり隠せてないのも事実)
一つ屋根の下一緒に暮らしている以上、なにかハプニング的なことがおこらないかと毎日胸をときめかせているいたいけな少女なのだ。
なのに当の本人は私なんて眼中にもないみたい。さっきみたいに子供扱いするわ貧弱呼ばわりするわ…腹立ってきた。
「ねぇ銀時ちょっと一発殴らせて」
「そんなにこやかな笑顔で言われても嫌ですからね!?」
「ちっ…だからお前はモテないんだよ」
「殴らせたらモテるのか。どこ情報だコノヤロー」
気だるそうにテレビの電源を入れ、お気に入りのお天気お姉さんがでているチャンネルに合わせる。
同じソファに座っていても、銀時がみているのは私じゃない。
「今日も可愛いな結野アナ。名前が突然結野アナにかわればいいのになー」
「そんなこと言って、実際私がいないとダメなくせに」
「お前よりも結野アナがいないほうが俺はダメだな」
あ、今胸が苦しかった。
ふざけんな、とツッコミいれたいのに、鼻の奥がツンとして喋れない。
「…アホ」
「あ?」
「アホ!この腐れ天パ!天パこじらせて風邪をひけ!」
「はい、お前今全世界の天パを敵に回しましたー」
「うるさい!」
「は?お前なに泣いて…」
ポタポタと目から何かが落ちる。
おい、私泣くんじゃない。カッコ悪いぞ。
でも、自分でもどうにもならない。心配そうにこっちを見ている銀時が、ユラユラと霞んで見える。
「おいおい、泣くなって」
「だっ、て…銀時がっ…!」
「はいはい、ごめんごめん」
ポンポンと私の頭に手を置き、まるで子供をあやすように優しい声で言った。
こんなときでも子供扱い。女としてみてもらえないのって、こんなに辛いんだ。
「いつになったら銀時は私を女扱いするのよ…!」
「はぁ?何言ってんだよ。俺から見りゃまだまだだっての」
「化粧だってしっかりするのに」
「色気がねぇ」
「料理だって作れるのに」
「俺の方がうまい」
ぐっ…言い返せない。
それでも私は銀時が好きなのに。未だに止まらない涙に、そろそろ嫌気がさしてきた。
「あー…なに?お前は俺のこと好きなのか?」
ニヤニヤとした顔で私の顔を覗き込み、自信ありげな発言をする銀時。
急に自分の気持ちを当てられた私は一瞬焦って、そしてその後冷静なフリをした。
「…うぬぼれんな天パ」
「そーいうところがガキだっつうの」
もう、隠しても無駄なんだ。
「…好き」
「聞こえません」
「好き!好き好き大好き!」
「よし、合格だ、名前」
銀時は私の手を引きぎゅーっと抱き寄せた。
甘ったるい匂いがしたけど、銀時に包まれているんだと思うとそんなのどうでもよくなった。
「お前素直になったら可愛いな」
「っーー!うるさいうるさい!」
「ガキのお前もいいけど、銀さんは大人な名前を見てみたいなー」
「うー…」
「はい、銀さんの目をみて」
「…」
ダメだ。やばい。照れるとかいう次元じゃない。
「好きだ」
「ふぇい!?」
「なんだその声、好きだっつってんだろ」
「ぎ、銀時ー」
「だーー!泣くな!鼻水付くだろ!」
そう言いながらもきつく抱き締めてくれる銀時。
「…好きだよ、銀時」
「俺も好き」
「結野アナより好き?」
「あんなの冗談だろ、本気にすんな」
「ガキとかもう言わないでね」
「まあ、お前次第」
私をバカにするその顔に、不意打ちでとっておきの攻撃を仕掛ける。
彼の唇から私の唇を離せば、真っ赤な顔で驚いている銀時が目にうつった。
マスカラしてますから
これでガキだなんて、言えなくなったでしょ?