■ Heart beat

「ロー、おいしい?」
「ああ、いつも通りだ」
「…おいしいって言って欲しいんだよ」


ローはぷくーっと頬を膨らませた私をみて、少し困ったように笑い、おいしかったと改めて言う。
そんな姿をみて満足したので、ちゃっちゃと片付けをすることにした。こんな冬の日は洗い物をするのだってきつい。冷たい水のせいで指がかじかんでしまいそう。
でもこの時間が幸せだったりするわけで。色んなことを考えるには丁度いい。


「明日はベポのすきなもの作ろうかな。それで、次の日はペンギンの好物で…」
「名前、あまり他の男の話をするな」
「ふふ…他の男っていっても、みんな仲間じゃない」
「んなことは関係ねぇよ。お前は俺のことだけ考えていればいい」
「本当にキザね、ローって」


私が笑うと、面白くなさそうに横を向いた。こういう仕草をするのは照れている証拠だ。こんな時、彼が億越えの賞金首だってことを忘れてしまう。


「怒らないでロー。心配しなくても、私が好きなのはローだけだよ」
「…あたりまえだ」
「それに、あなたには私の全てを捧げているでしょ。心臓だって、あなたのものなんだから」


彼の特殊な能力で、文字通り私は心臓を彼に預けている。それが私の気持ち。彼になら、なんだって預けられる。


「それでも不安?ロー」
「不安っつうか、不満だ。お前は俺の女だ、名前。お前は俺のためだけに生きてりゃいいんだよ」


洗い物をする私を、背後から抱きしめてきた。ローの息が髪にかかりくすぐったい。冷え切っている手とは裏腹に、私の体の温度は一気に上昇した。何度抱きしめられようと慣れることはないこの感覚。


私の身体にはもう存在していないはずの心臓の鼓動を感じた。あ、これはローの鼓動か。背中越しに伝わってくる彼の音は、少しずつ早まっているみたい。
なんだ、慣れないのは私だけじゃなかったの。



「あいしてる、ロー」


Heart beat
波音よりも心地よい音